「保護主義に傾倒」 経済専門家らが危惧 日本との関係にも変化?
世界景気の低迷を背景に、各国で保護主義的な政策が台頭する中、インドネシアがこのところ、国内産業の育成や資源保護を名目とした輸出規制を強めているとして、経済専門家から、資源ナショナリズムや保護貿易の風潮が強まっているとの指摘が上がっている。ステンレスの原料になるニッケル鉱石など、日本の産業界に与える影響懸念も噴出。新興国の雄として、好景気が続くインドネシアが世界経済の中で勢力を拡大する中、これまでの貿易・投資の最大のパートナーであった日本との関係にも変化がもたらされている。
インドネシアは2009年の新鉱業法で、14年に未精錬鉱石の輸出を禁止することを決定。それに先駆け今年5月、ニッケル鉱石など65品目の輸出を許可制とした上で、20%の輸出関税の課税を始めた。インドネシアのニッケル生産量は世界2位を誇り、日本は調達量の半分をインドネシアに頼る。禁輸までの移行期間の短さや、唐突ともいえる輸出課税措置に、日本の製錬業会に波紋が広がった。
住友金属鉱山(東京都)の広報担当者は取材に対し、「資源保護はインドネシアの国益にかなう」と一定の理解を示しつつも、「14年までに国内で精錬体制を整えるのは時間的に不可能。国内で処理できない鉱石は輸出に割り当ててもらいたい」と要望。太平洋金属(同)も、フィリピンやニューカレドニアなどからの調達量を増やすなど調達の多角化を進めているという。
非鉄金属の鉱業・精錬業界でつくる日本鉱業協会も政府に対し、インドネシア政府への働きかけを求めており、野田佳彦首相は先月18日の主要20カ国・地域(G20)首脳会議の場で、ユドヨノ大統領に再考を要請した。
日本政府は14年の禁輸を実施した場合、世界貿易機関(WTO)への提訴もあり得るとする。一方で今後、二国間の政策対話の場を持つことをインドネシア側と大筋合意しており、軟着陸を図りたい考え。
英字紙ジャカルタポストは16日、カットシート紙に対するダンピング(不当廉売)調査を日本政府が始めたことや、未精錬鉱禁輸に対して日本がWTOへ提訴の姿勢を見せたことと併せ、「液化天然ガス(LNG)の輸出を規制するのは簡単だ」とするエネルギー鉱物資源省副大臣の発言を紹介。これまで資源の受け入れ先として「お得意様」だった日本に対する姿勢を例に挙げ、国内需要の増大や諸外国の猛烈な市場参入といった背景を抱えるインドネシアがナショナリズムや保護貿易主義に傾倒しているとの識者談話をまとめた。
国際戦略研究所(CSIS)のジスマン・シマンジュンタック氏は「25年前と比べ、インドネシアの貿易政策は保護主義・国家主義的になっている」と危惧。中国など海外からの安価な輸入品に対する国内製造業界の危機感が、この傾向の背景にあると分析した。
同氏は自国資源を守るための規制は限定的措置とすべきとの見方を示した上で、「日イ両国当局者は(保護主義を)エスカレートさせないよう、限度をよく知る必要がある」と忠告した。
一方、外務省のデウィ・サフィトリ・ワハブ東アジア・大洋州局長は「すべての国にはそれぞれの政策があり、我々は政策を説明することに全力を尽くしている。今のところ、その説明は日本にも受け入れられている」との見解を示している。