コメの自給自足
今年、インドネシアのコメの輸入量が500万㌧超と過去最高を記録する見通しであることが当地メディアで話題になっている。インドネシアは生産量でも消費量でも世界第4位のコメ大国だが、今年の輸入量は前年比で6割以上の増加、これは国内生産量の約1割に相当し、実現すると世界最大のコメ輸入国になってしまう見込みだ。
今回の輸入急増は、エルニーニョ等による天候不順で国内生産が大きく落ち込んだことが直接的原因とされるが、そもそも生産量の増加が人口増加に追いついていないことや、生産性や流通過程の非効率さといった要因も指摘され始めている。
ただ少なくとも短期的には昨年からの天候不順の影響が大きく、その影響はインドネシアにとどまらない。最大のコメ輸出国インドでは昨年からの不作により自国消費分の確保を目的に禁輸措置を導入。これを受けコメの指標価格として使われるタイ産の輸出価格は約15年来の高値圏で推移している。フィリピンでは輸入米の価格高騰を受けて、国内消費者向け価格を引き下げるべくコメの輸入関税の大幅引き下げを決めた。
インドネシア人のコメ消費量は年間1人当たり約81㌔と、日本人の年間約51㌔を大幅に上回る(日本の一人当たりコメ消費量は一貫して低下傾向にあるが、インドネシアの足下の一人当たり消費量は日本の1970年代後半の水準に相当する)。自分の周りに聞いてみても、朝のお粥を含めて3食コメという人が少なくない。この国において、コメの輸入依存は、食糧安全保障の観点からも高い問題意識を喚起するであろうことは想像に難くない。
食料自給率、特にコメのような主食の自給は、多くの国で優先度の高い政策と位置付けられるが、ロシアのウクライナ侵攻以降の小麦価格高騰といった地政学リスク、頻繁に発生するエルニーニョや猛暑といった気候変動リスクを考えると、その重要性は年々高まってきていると言えよう。
日本はコメについてはほぼ100%の自給率を達成しているものの、食料自給率全体で見ると38%(カロリーベース、2022年時点)と、先進国の中でも最低水準にある。日本の農業従事者の平均年齢は約70歳と言われており、今後数年間で供給サイドの担い手不足が急速に深刻化してくる可能性が高い。今後、インドネシアとはやや異なる文脈ではあるが、食糧安全保障により焦点が当たってくるのではないかと考えられる。
この面での優等生はドイツやフランスといった欧州連合(EU)諸国だろう。食料自給率はドイツで80%強、フランスでは120%を超える。両国とも戦後の食糧難から農作物の増産を進めたが、国内で供給過剰となった後も(日本のような減反政策は採用せず)補助金を使って輸出振興に努めた。その後、生産性の向上やマーケティングの強化も進んで、いまや農作物が重要な輸出品目となっている。
このように輸出競争力をつけて純輸出の状態を達成することは、食糧安全保障の観点でも王道の戦略と言えようが、そのためには政治的に長期的に強いコミットメントが必要になろう。食の安全保障はプラボウォ次期政権の重要施策の一つだが、足下でコメの輸入依存が高まる中、具体的にどのような政策を打ち出してくるか注目に値する。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)