金利差と為替レート

 ドル金利の高止まりが思ったより長く続き、これがいつ頃から下がりはじめるかはまだ見えていない状況が続いている。これまで同様、ドル金利の低下がいつどういったペースで起こってくるかは、マーケットの最大の関心事であり続けている。ただし、先月の米国のインフレ関連指標は、かなり鮮明にインフレの鈍化傾向が進んでいることを示しており、ここへ来てマーケットも利下げの織り込みを進めてきている(足下のドル金利先物市場では、9月の利下げが70%超、11月までの利下げは100%織り込まれている)。
 ドル金利が下がれば、又は下がる見通しが明確になってくれば、為替市場の方もこれまでのドル高基調から逆の方向へ動き出すのではないか、というのがこれまでの大勢の見方であった。ただ少なくとも今までのところは、まだそのようなトレンドの転換は起こっていない。
 ここ数年、ドルとの間の金利差に着目して為替の動きを説明するアプローチがかなり一般的になっている。ドル円相場については、金利差が大きければ円のキャリートレード(金利の低い円で資金を借りて、金利の高いドルで運用することで利鞘を得る取引)も活発になるだろうという見立てから、多くのアナリストが金利差に着目してドル円相場を分析しようとする。ドル・ルピア相場についても、一昨年以降のドル金利が引き上がっていく過程で、(インドネシア国内のインフレ率がさほど高くはならなかったにも関わらず)ルピアの政策金利の引き上げが行われてきたのも、インドネシア中銀が多かれ少なかれ金利差に着目して為替レートの安定化を志向したためと言えるだろう。
 ドルとの金利差と為替レートの動きの相関性を見ると、ドル円については2022年以降、ドル・ルピアについては16〜19年、そして22年以降について、その高い相関性が認められ、これらの期間を通じて金利差の説明力が高まったことを裏付けている。
 しかし、もう少し過去まで遡ると、この相関性にはかなりばらつきがあることがわかる。例えば、01年は米ドルは4・75%もの大幅な利下げを経験し、ドル円の金利差も大きく縮小したが、この間の為替相場はむしろ円安が進んだ。ルピアについても10〜12年初めにかけてドルとの金利差がほぼ不変な中でルピア高が進む相場展開があった。つまりドルとの金利差は、為替相場について常に高い説明力を持っていたわけではないということになる。
 これから先の相場展開を見る上で、金利差以外にどんなファクターに注目しておくべきであろうか。一つは世界経済全体の景況感があるだろう。やや悲観的なシナリオとして考えられるのは、米国経済の予想外の減速などにより、他地域の景況感にも変化が生じるようなことがあると、マーケット全体にリスク回避的な志向が強まってエマージング通貨には逆風に働く可能性があることだ。もう一つ、インドネシアの場合には、新政権下の財政規律問題もルピアの売り要因として燻っており、ドル金利の低下があってもこういった要因の方が打ち消してしまうようなことも考えられよう。
 ドルとの金利差は、マーケットにおいて引き続き大きなファクターとして注目されるだろうが、これから先のドル金利低下局面においては、それ以外の要因にも気を配っておくべきであろう。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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