先進国入りへのカギ

 毎日の車に乗った移動ではなかなか目にすることがないかもしれないが、車を降りて自分の足で歩いてみると、路上にごみが多いことに気付く。狭い道や路地だけではなく大通りでもごみが散らかっているのを目にする。これはジャカルタなどの大都市に限らず、地方の町や村でも見られる光景である。ごみに対する人々の意識が多分に影響しているのではと感じざるを得ない。こういった状況は決して他人事ではなく自分自身の住み慣れた街で起きており、気持ち良く暮らせる環境をつくっていく必要がある。
 ごみ問題はインドネシアが抱える一つの課題である。近年の経済発展と人口増加によりごみの排出量も増加傾向にあり、年間約6800万㌧ものごみが排出されており、これは世界第5位の数字である。その一方で総量の約91%は分別されておらず、70%が野積みにされている。また、世界的に海洋プラスチックごみが問題視されているが、インドネシアはこの海洋プラスチックごみの排出量が中国に次いで2番目に多い国にもなっている。
 インドネシアは東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主としての立場を築き始め、ジョコウィ大統領は先進国入りを目指すと表明しているが、先進国入りのためにこのごみ問題の解決は避けて通れない道であると考える。
 インドネシア政府はコミットメントとして2025年に「廃棄物を30%削減」と「プラスチックごみの海洋流出を70%削減」を掲げていて、ごみ問題の解決のために取り組みを行っている。その一つとして環境・林業省大臣令第75号が19年に施行されている。この規制は、食品や消費材などの製造業や飲食業、小売業の企業を対象に、各企業が排出するごみを抑制、再使用、再利用によって29年末までに3割を減らすことを求めている。この規制に対する認知度や一部の企業の真剣度が今一つ高くない点が気になるところではあるが、ごみの適切な回収やリサイクルを推進するこの規制は、インドネシアのごみ問題の解決、そして持続可能な社会の実現のためには必要な規制であると理解できる。またこの規制を契機としてごみの回収やリサイクルについての取り組みが少しずつではあるが始まっているのも事実である。インドネシアには元々各地域で「ごみ銀行」と呼ばれるいわゆる回収業者があり、生ごみ以外のごみを住民から買い取り、分別してリサイクル業者に販売をしている。このごみ銀行を活用する動きもある。
 独自に生ごみ以外のごみを回収する回収ステーションを設置し、アプリケーションを活用して住民から直接ごみを回収するビジネスを行う企業も数社出てきている。
 今後このような取り組みの規模を広げていく必要があるし、規模が広がればインドネシアでは将来的にごみを適切に回収し分別して再資源化するというサイクルを作り出せる可能性はあると考える。ただ、このサイクルを築くための最も重要な要素の一つは冒頭に触れた人々の意識である。まずは各家庭で生ごみと生ごみ以外を分別すること。ここから始めて人々の意識を変えて行く必要があるし、また、自分たちの住む街は綺麗な方がいいというモチベーションを持って適切にごみを捨てるという習慣作りが必要である。
 これは簡単なことではない。ただこれを築くことで真の意味での先進国への仲間入りができると信じている。
 川口博史 インドネシアヤクルト社長(JJC農林水産部会理事)

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