上流からの下支え
インドネシア経済の強みの一つは「人口」にある。2023年の人口は約2億7300万人。インドネシア政府によると、人口増加の伸びは穏やかになってきているものの、過去3年間の平均では、年間約240万人増加しており、2030年前半には3億人を超えると予測されている。
インドネシアではこれからも若い豊富な労働力の活用が期待されており、2023年時点での世界国内総生産(GDP)ランキングは16位であるが、30年までに10位内、40年代には日本を抜き、世界第4位の経済大国になると予想されている。人口増加が経済発展に寄与する、いわゆる「人口ボーナス」である。
一般的に、一人当たりのGDPが2000~3000㌦を超えると都市化や工業化が進み、個人の消費スタイルが変化し、消費財の消費が活発化すると言われている。インドネシアでは2010年ごろに3000㌦を突破した。現在は5000㌦弱だが、人口とGDPが約6割集中するジャワ島が数値を引き上げており、ジャカルタは1万9000㌦。一方で、3000㌦に満たない州が11州もあり、その人口は約8800万人と人口の30%以上を占めている。今後は、この一人当たりのGDPが3000㌦に満たない地域の経済成長も期待される。
2018年には工業省が、IT技術を使い生産性と品質の向上に繋げ、経済成長を6〜7%まで押し上げることを目標とした「インダストリー4・0」導入に向けたロードマップ「Making Indonesia 4.0」を発表した。「インダストリー4.0」を推進し、インドネシアが2030年に世界のトップ10の経済国になることを目指す。この中で優先的に進める5つのモデル分野を定めているが、そのうちの一つが「化学産業」である。
インドネシアで化学製品の製造販売の事業を営んでいる弊社が、国内製造している「高吸水性ポリマー」の主用途である紙おむつも、一人当たりのGDPが2000~3000㌦を超えたころから需要が飛躍的に伸びた。弊社は「高吸水性ポリマー」以外にも、さまざまな塗料や粘接着剤の原料となる「アクリル酸」および「アクリル酸エステル」をインドネシアで唯一製造販売している。
一方、インドネシア政府は2060年までのカーボンニュートラルを掲げている。日本の化学産業にはCO2を活用するカーボンリサイクルなどの技術もあり、昨年9月に発足した「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」における日本・インドネシアジョイントタスクフォースや、同12月に開催されたAZEC首脳会議では、日本政府からネットゼロに向けて日本の技術や経験を共有していく意思が表明されたことからも、今後の日尼間での官民一体となったカーボンニュートラルへの取り組みが期待される。これから、バイオ燃料や再生可能エネルギーの活用、石化原料からバイオ原料への転換がより進むようになれば、インドネシアが有する、豊富な天然資源、広大な土地、安定した気候、などカーボンニュートラル実現に高いポテンシャルが高い。
化学産業はこれまで素材の供給でインドネシア経済の底支えに貢献してきたが、加えてカーボンニュートラルの実現も期待されている。ジャカルタ・ジャパンクラブ(JJC)化学品合樹グループとしても、今後も産業の上流からインドネシア経済の下支えに貢献していきたい。
吉本進一郎 PT.NIPPON SHOKUBAI INDONESIA社長(JJC化学品合樹グループ代表理事)