選挙結果とマーケットの反応
注目の大統領選挙、プラボウォ・ギブラン・ペアが大方の予想を上回る6割近い得票で、1回目投票で決着をつけることがほぼ確定的となった。
選挙日翌日15日のマーケットは、朝方から株価(ジャカルタ総合株価指数)は1ヶ月半ぶりの高値でオープンし、その後も強含みで推移。選挙結果にポジティブに反応したと言えるが、どちらかと言うとやや控えめな反応で、年初来、世界的な株高傾向が続く中で、やや伸び悩んでいたインドネシア株のパフォーマンスが、これを機に上昇軌道に乗るかというとそこまでの力強さはない。同じ日、為替の方もオープン直後は若干ルピア高で推移したが、その後は前日の米国金利の上昇の流れを受けてルピア安方向に修正が入り、結局は投票日直前よりも若干のルピア安水準で終えた。つまり今回の選挙結果を受けて、総じてマーケットには大きな変化は無かったと整理できよう。
ビジネスに関わる人たちとの話を総合すると、大きな混乱もなく1回目の投票で明確な勝敗が見えたことで不透明感が解消され、政治上の大きなダウンサイドリスクが取り除かれた、といったような捉え方が多いように感じる。足下のマーケットの値動きには反映していなくても、リスク・ファクターが軽減されること自体は中長期的にはポジティブに効いてくるはずだ。
また今回の選挙戦では、政治による司法への介入や、政府機関を通じた特定候補への肩入れなど民主主義の後退ともとれる事象も見られたが、その良し悪しはともかく、少なくとも現時点までのマーケットの見立てという意味では、インドネシアに対するセンチメントに悪影響を与えるまでには至っていない、ということにもなろう。
投票日当日、ジャカルタ市内のいくつかの投票所で投開票の様子を見学することができた。いずれも屋外にテントを張って会場をつくり、選挙監視のスタッフが見守る中、それぞれの地元のボランティアの人たちの運営により、投票と開票が同じ場所で行われる仕組みだ。一つの選挙会場の登録投票者数が制限されていて(私が見学した会場はいずれも登録投票者数200人強)、かなりこじんまりした印象だが、誰でも会場内やその周辺のイスに座って見学することができて、開票作業も多くの人が見守る中で一票ずつ読み上げながら行われる。このような参加型かつ透明性の高いプロセスは、高い投票率(今回の選挙も投票率は80%を超えたと見られている)と相まって、国民の間に納得感を醸成する上で重要な役割を果たしているのではと感じた。
大統領選という一大イベントを無事終えつつある中、今後の争点は、組閣も含めた政権移行ということになる。新政権下での経済運営という観点では、財政の健全性や産業政策の方向性などに変化が出てくるのかどうかといったことが焦点になるだろう。今後、新政権の立ち位置や方向性が見えてくる中で、その都度マーケットが反応することはあまり想定されないが、もしネガティブに反応するようなことがあるとすれば、それはかなり注意を要する、ということなのではないかと思う。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)