大統領選挙と為替
いよいよ明日に迫った大統領選挙の投票日。選挙がマーケットにどんな影響を与えるかとの質問をよく受けるが、今回は有力候補が現職の政策路線継続を謳っていることもあり、市場参加者の大半は、かなり想定外のことが起きない限りは大きなマーケットの変動要素にはなりにくいとの見方を共有しているようだ。
ただ年初来、ルピア為替はどちらかと言うと弱含みで推移してきており(年初来の6週間に対ドルで1・5%の下落)、これは主にはドルの早期利下げ期待の剥落などドル側の要因が強いが、それでも一部、先月のスリ・ムルヤニ財務大臣の辞任についての観測報道にマーケットが反応するなど、大統領選を前にした政治的不透明感がルピア為替の軟調を招いている側面もある。インドネシア中銀も為替介入でルピアを買い支えてはいるが、大統領選を前に少なくとも今までのところは、ルピアがやや売られやすい展開が続いてきたと言える。
過去の大統領選挙について、2004年以降、今回も含めた5回分について、選挙前(決選投票のあった2004年は1回目の選挙前まで)の6週間のルピア為替の推移を、MSCI新興国通貨指数(エマージング・マーケットとされる24の国と地域の通貨の為替レートを一定の方式で指数化したもの)の推移と比べると、いずれの年においてもルピアのパフォーマンスが、その差は0・1%〜4・0%とバラツキはあるものの、下回っている。計測期間を変えるとルピアのパフォーマンスがよく見える年もあるが、概ね大統領選挙前にはルピアのポジションを若干なりとも落とす傾向が見て取れる。選挙前の政治的な不透明感を前に市場参加者が慎重になる、あるいは選挙が近づくにつれ(今回の財務大臣の件のような)ややネガティブなニュースが出てきてそれに反応する、といったことが背景にあると考えられよう。
では選挙後はどうだろうか。同様に過去4回分の大統領選挙の終了後(決選投票があった2004年は2回目の選挙終了後)、6週間のルピアのパフォーマンスを新興国通貨指数と比較すると、勝ったり負けたりで、こちらは有意な傾向は見て取れなかった。市場参加者は一定の期待値を持って日々の取引を行うので、その期待値との比較において不透明だったりネガティブなニュースには反応するが、予定通り選挙が終わったこと自体はあまり材料視されなかった、ということなのかもしれない。
選挙イヤーの今年、今月のインドネシア大統領選の後も、4月のインド総選挙、6月の欧州議会選挙、そして11月の米大統領選と立て続けに大型選挙が続く。1月に行われた台湾の総統選挙では、対中強硬派で知られる頼氏の当選確定後に台湾ドルが一時的に大きく下げた。今後それぞれの選挙がどうマーケットに影響するかは、一概には予測できないだろうが、市場参加者の期待を裏切るサプライズがあるとマーケットにも何らかの影響が出てくる可能性はあろう。
その意味では、選挙自体が混乱なく平和理に実行され、各候補者とその支持者が選挙結果を受け入れること、そして組閣を含めてスムーズな政権交代が実現することこそがマーケットの期待にマッチした展開であることに違いない。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)