ジャカルタに青空を
「東京ガスさんはインドネシアで何をしているのですか?」。しばしば聞かれる質問である。
当社は2015年に駐在員事務所をジャカルタに設置。現地法人化を経て今年、進出10年目の節目の年となる。インドネシアの2つの民間ガス会社に出資を行い、出資先を通じた天然ガスの普及拡大に取り組んできた。加えて、LNG(液化天然ガス)受入基地やガス発電などインフラ事業への新規参画を目指している。
我々が日本でお届けする都市ガスは、昔は石炭から製造していた。1969年、日本で初めてアラスカからLNGを受け入れ、徐々に天然ガス原料の都市ガスに置き換えていった。当時は東京も公害で空気が悪く、「東京に青空を取り戻そう」が掛け声だったという。
エネルギー大国であるインドネシアとの関係では94年から20年間、LNGを長期契約で輸入していた。2014年に契約は切れ、以降、長期契約という形でのインドネシアからのLNG輸入は途絶えている。
気候変動問題が世界の最重要課題の一つとなって久しい。インドネシアも2060年までのカーボンニュートラル達成を表明している。このための政府が描く主な道筋は、再生可能エネルギーの利用拡大、そして石炭から天然ガスへの転換、である。
太陽光、風力を中心とした再生可能エネルギーの利用拡大の重要性は論を待たないが、環境に優しい化石燃料である天然ガスへの石炭や石油からの転換をいかに確実に進めていくか、も極めて重要だ。そして、これを実現するためには天然ガスパイプラインの整備はもちろん、LNGの受け入れ基地、船舶やトラックなどの輸送手段含むLNGの物流網の構築・整備が必要である。
ここで我々の経験・技術がお役に立てるのではないか。発展著しいインドネシアにおけるエネルギー安定供給を支え、カーボンニュートラル達成に貢献できるのではないか、と考えている。
さらに時代は先を行く。相対的に環境に優しい天然ガスではあるが、それでもCO2を排出する化石燃料であることには変わりない。そこで排出したCO2を捕まえ、貯留するいわゆるCCS(二酸化炭素回収・貯留技術)とのセットが将来的には不可欠になるかもしれない。
また、日本のガス業界が力を入れているのが、大気中に放出されるはずのCO2を回収して、再生可能エネルギーで水を電気分解した水素を組み合わせて作る合成メタン(e―methane)である。合成メタンはカーボンニュートラルであり、既存のLNGや天然ガスの設備をそのまま使える利点を持つ。2060年の時間軸で考えた場合、こうした新しい脱炭素技術がインドネシアにおいても主役の座についているかもしれない。
先日、ジャカルタ市内を車で走っている時、ふと空を見上げるときれいな青空が見え、すがすがしい気持ちになった。同時に遠くを見通すことができない、乾季のよどんだ空気の記憶がよみがえってきた。「ジャカルタに青空を取り戻そう」。そのために微力を尽くし、貢献ができるのであればこんなに嬉しいことはない。
宿谷貴志 東京ガスインドネシア社長(JJC燃料グループ代表)