明暗分かれるアジア通貨

 アジア通貨の為替の動きに明暗が出てきている。年初来の対ドルでの騰落率で見ると、5%超上昇しているインドネシアルピアから、5%超の下落を見せている韓国ウォンまで大きく差が出ている。昨年1年間は、ドルの利上げが続く中ほぼ全てのアジア通貨が対ドルで下落したことを考えると、今年はだいぶ違う局面に入ってきたと言える。
 個々の通貨を取り巻く状況を見てみると、それぞれの為替の動きは固有の理由で起こっているようだ。インドネシアルピアの上昇は、貿易黒字が(その規模はやや縮小しているものの)引き続き堅調に推移していて、これが継続して実需のルピア買いをつくり出していることや、インフレ率も足下で着実に抑制されてきており、インドネシア国債の実質利回りの相対的な高さが海外からの投資資金を惹きつけているといったことが背景にある。次に買われているタイバーツ(年初来2%上昇)は、輸出が持ち直して先月貿易収支が1年ぶりに黒字転換、観光収入の回復も加わって、これが堅調に通貨を押し上げている。
 一方、韓国は半導体産業を中心に輸出が大きく伸び悩み貿易赤字が続いていることが韓国ウォンの下落につながっている。円も年初来3%程度下落しているが、これは日銀新総裁就任後に早期の金融政策変更の期待が剥落したことが主因といえよう。マレーシアリンギットは年初来2%下落したが、貿易収支は黒字を維持しているものの輸出自体は足下低下トレンドとなっているほか、実質金利も周辺国比で低いことなどが影響したと見られる。
 これら国ごとの事情によって今の明暗分かれる状況に至っている訳だが、半年前に時計の針を戻してみると、別のシナリオもあったのではないかと考えられる。つまり、もし中国経済の回復がもっと力強ければ、アジア各国の貿易収支の改善に一役買って、アジア通貨が昨年の下落を一様に取り戻す、という展開もあり得たかもしれない。
 今年に入ってからの中国経済は、回復基調にはあるものの、不動産セクターの低迷や消費の伸び悩みもあり、政府が年5%前後とする成長率目標が未達に終わる公算も高まっている。中国の全体の輸入額も前年をやや下回るペースだ。アジア各国の上位輸出先は軒並み中国が占めるが、前述の韓国やマレーシアといった輸出不振国の中国向け輸出は前年・前々年の水準と比較しても低迷が目立つ(インドネシアも輸出先トップは中国だが、石炭など資源価格の高止まりにより輸出額は高水準を維持している)。
 2008年のリーマン・ショックからの回復時に中国経済の果たした役割は非常に大きかった。4兆元経済対策のような大型の財政政策に、民間部門の投資や消費が呼応し巨大な需要を創出した。同じ状況を期待する向きは今でも根強いが、現実は異なる。中国経済が世界経済を引っ張ってくれるわけではないという現実は、経済のあらゆる側面に影響を及ぼす。為替市場もそのうちの一つと認識しておくべきだろう。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

為替経済Weekly の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly