資源高の恩恵は続くか
早いもので今年も残すところあと半月余りとなった。どうやら2022年のインドネシア経済は大きな波乱もなく終えることができそうだ。グローバル経済が歴史的インフレ高進と急ピッチの利上げに翻弄される中、インドネシア経済は相対的に安定していたと言える。そしてこの安定の源泉はやはり資源高の恩恵を十二分に享受できたことであろう。資源高が過去最高水準の貿易黒字をもたらし、これがルピア為替の安定、そしてコロナ後の内需の堅調な回復をもたらす好循環を生み出した訳だ。
ではこの好循環、23年も持続するだろうか。一義的にはインドネシアの輸出に貢献する資源品目の国際価格がどう推移するかに依ってくるだろう。その観点で主要品目の見通しについて見ていくこととしよう。
まずは石炭。足下で総輸出の約20%を占める稼ぎ頭だ。今年の石炭価格は2月のウクライナ侵攻を受けて約3倍の水準にまで高騰、10月以降は多少修正が入ったが依然として高値圏を維持している。ロシアからのエネルギー供給が滞る欧州の石炭需要は冬場を越えると一段落するものの、恒常的なエネルギー不足は数年単位で続くと見られている。またゼロコロナ政策を緩和した中国の経済回復が新たな需要を生み出す可能性も高い(インドネシア産一般炭の輸出先トップは中国で約3割を占める)。なお、インドネシア政府は石炭事業者に国内供給義務を課しているが、同義務の未達によって、今年初めに実施されたような禁輸措置が講じられるようなことがあると、ルピア為替にとっては短期的な波乱要因となろう。
次にパーム油。総輸出の約10%を占める。今年2月以降価格が高騰したが、インドネシア自身の禁輸解除による供給増もあり6〜7月ごろ下落、以降はほぼ横這いで推移している。インドネシアが世界シェアの半分以上を占める一方、国内需要とのバランスをうまく維持することが求められており、少なくともインドネシア起点で大幅な価格上昇を招くような政策は考えにくい。なお、パーム油の輸出先もトップは中国で約2割を占める。
次に銅・ニッケルといったベースメタルが続く(石油・天然ガスは、輸入を差し引いたネットの輸出だと順位が下がる)。これらの価格は足下では今年のピークから2〜3割程度低いが、数年単位で見れば依然として高値圏だ。これらの品目も中国経済の回復で需要が高まると価格が反応してくる可能性が高い。銅は非常に幅広い用途で使われ景気を先取りする指標として注目されるが、足下の中国のゼロコロナ政策緩和を受け銅先物価格は約7%上昇している。
以上、インドネシア経済を左右する資源品目の動向は、中国経済の回復スピードがカギを握っていると言って間違いないであろう。
中国のゼロコロナ政策の緩和は、基本的には世界経済にもプラスに働くであろうが、一方で新たに出てくるリスクにも注意しておきたい。そしてそのリスク次第では、プラスよりもマイナスの要因が上回ることもありうるだろう。例えば、緩和により感染が再拡大した場合、医療体制の脆弱さから社会的混乱や政策の揺り戻しが出てくるかもしれない。また、順調に経済回復が進んだ場合でも、世界第2位の経済大国の需要回復が、さまざまな財の国際価格を引き上げる方向に働く可能性がある。この場合、世界的インフレをさらに加速させてしまうリスクがあり、そうなると、利上げ終了のタイミングも後ズレとなってくるかもしれない。
いずれにせよ来年の経済情勢を占う上では、中国経済の動向に注目すべきであろうが、その影響がインドネシア経済にとってプラスに出るかマイナスに出るかを、よく見ておく必要があると考えている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)