ジョージの教訓を胸に
「孤独なジョージ」という異名を持つ世界一有名なカメが死んだのは、今から10年前のことだった。南米沖に浮かぶガラパゴス諸島ピンタ島。この島にはかつて無数のゾウガメが生息していたが、人間が島に居住したことで生態環境が変化した。多くの尊い命が奪われ、ジョージは生き残った最後の一匹。ジョージは人間の環境破壊による被害者の象徴だった。
インドネシアは近年急速な経済発展と人口増加を続けている。経済成長を優先する一方で環境保全が後回しになり、深刻な廃棄物処理問題に直面している。人口は年々増加しており、2020年には2億7000万人に達した。それに伴いごみの量も増え、2019年は総量約6700万㌧と推計されている。
海洋プラスチック問題においてもインドネシアは中国に次ぐ世界第2位の排出国。リサイクル率は7%に止まり、ごみの大半は最終処分場に野積みされている。その野積み場でさえも収容能力の限界を迎えつつある。
これを受け、環境林業省は大臣令第75号(2019年)『生産者における廃棄物の削減に向けたロードマップに係る規制』を施行。一部の製造業、飲食業、小売業者に対し2029年末までに30%の廃棄物削減目標を定め、年内にロードマップの策定を求めている。一部包装素材や用途には2030年以降の使用を禁ずる内容も盛り込まれている。
廃棄物処理の徹底を求める規制は持続可能な社会の実現に必要ではある。ただし、同規制には非効率・不明瞭な点が指摘されている。
まずは、規制対応の主体が企業個社単位であること。廃棄物削減は①ごみの発生抑制②自社の使用済容器の回収及びリサイクル——の2つの方法がある。多くの企業は①だけでは前述の法定削減目標となる30%には届かず②にも取り組むことになるが、本規制では自社製品のごみの回収が各企業に求められている。例えば飲料メーカーであれば、自社製品のペットボトルでなければ回収しても自社の削減量にはカウントされない。このような企業別の自社製品の廃棄物回収は極めて非効率的である。
また、削減目標達成時のインセンティブがないことも改善点である。企業は規制対応のため、製造ライン改修やリサイクル設備導入などの投資が必要となる。厳しい競争環境の中で、補助金や税優遇といった支援がなければ、政府目標の達成は遠のいてしまうだろう。
ジャカルタ・ジャパンクラブ(JJC)では、日系企業が効率的に規制対応に取り組めるよう、同規制への政策提言を目的とした廃棄物規制ワーキンググループを立ち上げた。現在は参加企業約80社より規制対応の現況や課題を聴取するアンケートを実施している。
ジョージが死んだことで、ピンタゾウガメは絶滅した。人間が持ち込んだヤギや豚が島の植生を破壊したことが原因と考えられている。ガラパゴス諸島は、チャールズ・ダーウィンが進化論の着想を得た場所。「唯一生き残れるのは、変化に適応できる者」という一節の通り、企業の在り方や人々の生活習慣にも変化が求められている。時代の変化に適応できなければ、厳しい未来に直面することになりかねない。引き続き、環境経済の動向を注視するとともに、JJC廃棄物規制ワーキンググループの活動を通じ、日系企業の適切な変化をサポートしたい。(JJC事務局長 小倉政則)