半導体の世界的動向
かつて電機業界は海外輸出の象徴であり、自動車と並ぶ基幹産業として戦後日本の経済成長を支えてきたというのは紛れもない事実であろう。しかし、近年、個人向け家電製品や情報端末などは韓国や中国などアジア各国の攻勢を受けて競争力低下は否めない。今や、部品を組み立て、新技術を商品化して売るという単純な「モノ」製造販売に特化する電機メーカーは息を潜め、その技術を社会インフラに投じたり、企業のシステム構築や施設のネットワーク管理を整備したりという「コト」消費などへのビジネスモデル変革が加速している。まさしく業界再編・第4次・5次産業革命への動きだ。
その矢先、コロナ禍以外にも大きな衝撃が、全世界の電機業界に走った。
世界的に広がる深刻な半導体部品不足である。以前なら最長でも6カ月間待ちが、いまや1年から18カ月間待ちという有様である。
冷戦以降、鉄鋼にとってかわり産業のコメとも評される半導体については、もはや説明は不要であろう。日常生活を支えるあらゆる電子機器には、必ずと言ってよいほど半導体が使われている。2021年3月、半導体製造大手ルネサスエレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で起きた火災は、世界的にも大きなニュースとなった。国家テロの可能性が噂されたほどである。
こうした突発的な火災は別として、半導体不足の要因としては3点考えられている。①リモートライフ・5G普及やクラウドコンピューティングの急激な成長による新たな需要②天候不順による生産停止やコロナパンデミックによる工場閉鎖がもたらしたサプライチェーンの混乱③ウクライナ危機や台湾海峡不安など短期的要因、レアアース調達など長期的要因からなる地政学的観点からの増産投資不安——が挙げられている。当面の混乱収束には、少なくとも24年末まで要すると見られている。
インドネシアに目を向けた場合、進出している電機関係の日本企業群は2種類に大別される。一つは、製品をインドネシア国内及び近隣諸国へ販売するいわゆる販社。二つ目は、ノックダウン・OEM(相手先ブランドによる生産)・オフショア開発などいわゆる現地生産を目的とする会社である。いずれにしても、戦後賠償以来、形を変えてインドネシア経済に雇用をはじめとし深く根を下ろしている。
これら半導体不足は、販売不振・工場操業不安など実問題を引き起こし、また近年IoT化が進む自動車業界にまで調達遅延などの影響を与え始めている。実際、弊社が属している日清紡グループでは、超スマート社会の実現を掲げ、半導体製造工場を有し、モビリティ事業や社会インフラ通信事業への関連が深い。しかし現在、お客さまからの半導体部品注文に応えられないケース、半導体部品長納期化による最終製品長納期化でエンドユーザに心配をおかけするケースが頻発しており、問題解決に日夜奔走している。
俗にいう世界の電機業界の年間市場規模は、150兆円を超える。世界情勢不安に端を発し、医療危機、食料危機が叫ばれているが、個人生活を支える製品や生活基盤システムにまで影響が及び始めようとしている。産業構造の転換と合わせ、今後動向が注視される。
JRCスペクトラインドネシア社長 簡昌巳(JJC電子・電機グループ代表理事)