2つの禁輸措置
インドネシア政府の発表により、レバラン直前の4月28日からパーム油の輸出が禁止されている。当初は、影響の大きいCPO(crude palm oil)は除外されるとの報道もあったが、結局CPOを含むすべてのパーム油が禁輸措置の対象となっている。皆さまご存じの通り、1月の石炭禁輸措置に続いて、今年2回目の大きな禁輸措置の実施になる。
両商品ともに、インドネシアの基幹産業で政府としては、国際的な価格上昇の影響を抑えるために、国内インフレ対策でやむを得ず禁輸に踏み切ったとみられる。ただ、この措置は諸刃の件で、インドネシアの禁輸で世界的に供給量が減って国際価格が上がる中で、本当にインドネシアの国内価格だけを抑えることができるのか、さらに禁輸で当該基幹産業に与えるマイナス影響、貿易黒字の減少を通じたルピア安リスクなど、悩ましい側面が多々ある。
さらに注目すべきは、「インドネシア経済に与えるインパクト」という観点から見ると、石炭よりもパーム油禁輸措置の方が、影響が大きい点である。
理由は大きく2つある。1つは、インドネシア産パーム油の存在感の大きさである。データをみると、インドネシアが世界生産量に占めるシェアは、石炭(一般炭)は1割、パーム油は6割で、パーム油の方が遥かに多い。昨年のインドネシアの輸出に占める金額は、石炭は265億ドル、パーム油は285億ドルでどちらも輸出全体に占めるウェイトは11%~12%とさほど差はなかったが、今年第一四半期の輸出全体に占めるシェア実績は、石炭が9・2%へと減少した一方でパーム油は引き続き同水準を保っている。1月に短期間とはいえ石炭禁輸を行って輸出を減らしてしまった影響が出ていると思われる。国内総生産(GDP)に占めるシェアでも、石炭は4・5%に対して、パーム油は5・3%と僅かであるが大きい。雇用のデータを見ると差はより顕著で、石炭は100万人の従事者数に対して、パーム油は370万人の直接雇用者数、周辺産業まで入れると1600万人の雇用が関係している。こうしてデータを眺めると、この国におけるパーム油の存在感の大きさが分かる。
2点目の理由は、産出量のうち国内消費に占めるシェアの小ささである。石炭はインドネシアでの産出量のうち26%を国内で消費している。一方、パーム油は、同17%にとどまる。つまり、政府の気にする国内供給量確保という点については、短期間の禁輸で確保できるとみられる。見方を変えると、パーム油は、より輸出産品としての性格が強く、同産業への従事者の多さを考えると、長い期間の禁輸は、インドネシア経済の成長という観点では、マイナスの影響を及ぼしていく可能性が高い。
こうして見ると、インパクトのより大きいパーム油の場合、禁輸措置を長く続けることの副作用はさらに大きいと思われる。1月の石炭の禁輸措置は、国内産業へのマイナス影響を勘案して10日間で撤回された。レバラン直前で開始されたパーム油の禁輸措置は現状でも続いているが、上記の理由から、早いタイミングで終わる可能性が高いと思っている。(三菱UFJ銀行 江島大輔)