中銀の判断軸

 ドル円相場が20年ぶりに131円台へ上昇した。円はほぼ独歩安の状態で、対ルーブルでも円安傾向になっている。4月の急ピッチでの円安を受けて、日銀はこれまでの大規模金融緩和政策を調整するのでは、との市場観測が高まっていたが、ふたを開けてみると日銀は政策調整をせず、物価安定にむけて現在の強力な金融緩和を「継続する」姿勢を示した。この結果、利上げを急ぐ米国との金利スタンスの違いが鮮明となり、円安・ドル高のピッチは更に加速している。
 頑なまでの日銀の姿勢は、実は理解できる部分も多い。そもそも、日銀は為替レートを理由に金融政策を調整しない。日銀法の第一章第二条に「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うにあたっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」とある。つまり、物価安定こそが責務であり、2013年に定めた「物価上昇率2%」という目標を常に最重視している。日銀は今後の物価上昇率について、「資源高などの影響により22年度に一旦2%程度まで高まるが、その後は資源価格の押し上げ寄与が薄れ、23~24年度には再び1・1%程度まで落ち込む」と分析しており、「物価安定の目標実現には距離がある」としている。また、円安については、「10%の円安は日本の国内総生産(GDP)を約1%押し上げる」と、今年1月に試算している。長くデフレ対応に苦しんできた日本経済では、資源高や供給制約に基づくコストプッシュ型のインフレは長続きせず、力強い需要回復・賃上げを伴う物価上昇を目指すべき、という信念が伺える。日銀にしてみれば、現在は金融緩和を続けて経済成長を目指すべきであり、円安およびそれに起因する物価高対策は、政府の仕事と思っているかも知れない。
 翻って、インドネシア中銀の場合、「物価安定」だけでなく「為替安定」もスコープに含まれる。アジア通貨危機後の1999年に施行された新中央銀行法にて、「ルピアの価値安定が責務」と規定されており、これまで、新興国として高い経済成長を維持してきており、インフレ率は常に約3~5%程度増える中で、ルピアの減価を防ぐことに腐心して来た。実際、ここ1年半ほどは、インフレ率および為替レートの安定ともに、確り維持できており、着実な実績といえる。ところが、食品やエネルギー価格の上昇からくるインフレが徐々に鮮明になってきたところに、政府がパーム油の輸出禁止を発表すると、再び貿易赤字転落への懸念などから、ここ最近は徐々にルピア売りが強まってきている。
 インドネシア中銀の置かれた状況は、まだ相対的には恵まれている。資源価格高騰が国内経済の追い風となっている点、新興成長国としてデフレ懸念を抱えておらず、為替レート安定のために、利上げや預金準備率引き上げなど、温存している武器を柔軟に使っていくことができる点で、日銀よりは多くのカードを持っているといえる。インドネシア中銀は、日銀とは対照的に、ルピア相場を睨みながら、積極的に金融政策変更のアクションを取っていく可能性がある。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 江島大輔)

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