変わらないモノ
最近の情勢変化のスピードは早過ぎて、正直、ついていけない。ロシアによるウクライナ侵攻、140ドルに達した石油価格、米国での7%を超えるインフレ、インドネシアの経常収支黒字化、日本での震災による電力逼迫など、10数年に一度の出来事が、矢継ぎ早に発生してしまう。古くから万物流転・諸行無常とされるものの、環境が動き過ぎている。今回は、少し立ち止まって、この世で動かない不変なるモノ=数字、について書きたい。
数学の証明は絶対である。環境が変わろうと、例えば、ピタゴラスの証明した有名な三平方の定理は、古今東西不変の真理である。この点が、物理や化学と違う数学の魅力で、慌しい世相の中で、変わらないモノに触れると、人間の所業のせわしなさを感じる。
この三平方の定理(直角三角形の短い2辺の2乗の和は、斜辺の2乗の和に等しい)の派生形にみえるが、フェルマーの最終定理と呼ばれるものがある。「Xのn乗+Yのn乗=Zのn乗、となるnが3以上の整数は無い」という定理で、荒く言うと、「ピタゴラスの三平方の定理は2乗だから成り立つが、3乗以上で成り立つ整数の組み合わせは、存在しない」という定理である。17世紀にフランスの数学者フェルマーが唱えたが、その証明式が残っておらず、実に350年に亘って様々な数学者が証明にトライしては失敗を繰り返し、ようやく20世紀終わりにイギリスの数学者ワイルズによって証明された。この簡単に見える定理の証明には、だ円方程式の理論等を応用する必要があったとのことで、変わらないモノを証明する難しさを考えさせられる。
このフェルマーは、素数の研究などでも足跡を残した天才学者である。素数は1と自身しか約数のない整数で、面白くない数字と思われていた。ただ、4で割って余り1の素数と、余り3の素数にグループ分けすると、前者(5、13、17など)は、必ず「aの2乗+bの2乗」の形で表せられる。例えば、13は2の2乗+3の2乗で表せられる。後者(7、11、19など)は、決してこの形では表せない。これも不思議に思いつつも不変なる事実で、やはり証明は恐ろしく大変らしい。
また、フェルマーは、「完全数」の考え方も発展させた。完全数とは、約数を足すと自分になる数値で、6(1+2+3)、28などがこれに当たる。古代の人はこの数字に特別な意義を求め、この6が今の1週間の考え方の基礎になったとされる(神は天地を6日間で創造。その後、6日働いて1日休む形が定着)。この発展系で、約数の合計が自身を上回る「過剰数」と呼ばれる整数がある。例えば、12の約数の合計は16(1+2+3+4+6)で、自身より大きくなるので、12は過剰数になる。ゴルフの数字には、過剰数が多い。72、36、18はもちろん、往年の宮里藍選手が目指したスコア54(各ホール全てバーディ)も、過剰数である。
過剰数の72には、もう少し実用的な使い方がある。預金を預けると何年で2倍になるか、金利●%とすると、72を●で割るとおよその年数が分かる。金利6%の場合は約12年(72÷6)で2倍になる。約数の多い過剰数ならではの知恵で、これも、バブル期も今も変わらない数字の持つ不変性である。
世の中の喧騒と離れたこうした変わらないモノは、いつの時代もそのままの形で存在するので、尊い。
取り留めのない話、ご容赦下さい。閑話休題。次回は、経済トピックに戻って掲載予定です。(三菱UFJ銀行 江島大輔)