再来したオイルショック
既に3月も半ばに差し掛かった。ロシアのウクライナ侵攻が始まってから約3週間が経過した。経済マーケットへの影響は甚大で、原油価格が一時は1バレル140ドルに近づいた。また、石油だけでない。ロシアが主要産出国であるニッケルは、24時間で価格が2倍になる急騰ぶりで、先週は市場での売買が停止された。石炭、銅、アルミニウム、亜鉛なども価格上昇が続いている。これらは結果的に、インフレ率のさらなる上昇を促すことになる。もはや、1970年代の2度のオイルショックに匹敵する第3のオイルショックといえると思う。
油価に絞って、もう少し詳しく推移をみてみる。北海ブレント原油先物価格は、パンデミック前の2019年末は70ドル程度だった。これがパンデミックが始まると、経済停滞による需要低迷への懸念から20年4月に20ドルを切る水準まで一旦低迷した。その後は、ほぼ一本調子で上昇を続けて、直近ではこのパンデミック中の安値の7倍にまで達している。
こうした中で、経済制裁の一環として、米国は先週、ロシア産石油の禁輸措置に踏み切った。ロシアは世界第3位の産油国で、生産量は世界シェアの約8%を占める。また、ロシアの国家財政において、石油と天然ガスは合わせて5割を占める重要な収入源で、ここを西側諸国がどれだけ強く叩くのかは、今後の展開に大きく影響する。米国は、少し時間をかけてシェールオイル生産を増やしていく意図なのだろう。もともと、米国の石油消費量におけるロシア産の割合は3%と少ない。ただ、石油消費量の25%をロシア産に頼る欧州の場合、米国の禁輸措置に追従することは簡単ではない。さらに、以前の本稿で触れたように、天然ガスの供給問題もある。石油禁輸措置への報復として、ロシアからの天然ガス供給が絞られた場合、消費量の4割をロシア産天然ガスに頼る欧州としては、恐らく次の冬場は、電力供給不足に苦しむ可能性が高い。
さらに厄介なのは、このロシア産原油の禁輸措置は、OPEC(石油輸出国機構)にも間接的に影響が及び、結果的に現在の西欧諸国vsロシアという構図に、中東諸国を巻き込む可能性を高めてしまった。経済制裁でロシア産原油の入手ができない分、西側諸国としては短期的に増産しやすいOPECに期待していることは明白である。この場合、OPECが供給増を行えば、それは即ち西欧諸国(特に欧州)を支えてロシアへの経済制裁効果を強めることになる。一方、OPECが現状維持を続ける場合、欧州はエネルギー不足で確実に困ることになる。後者のシナリオの場合、油価はさらに上昇し続けるだろう。このような形で、中東諸国も徐々に騒動に巻きこまれていく場合、地政学リスクはより複雑なものとなり、結果として今後の金融市場のボラティリティは高まることになる。
いよいよ本日から2日間、米国でFOMC(連邦公開市場委員会)が開かれる。サプライズを避けるべく、すでに最低でも0・25%の利上げについては周知の事実になっている。エネルギー価格が不安定化する中で、金利上昇局面がスタートしてしまう。金融の引き締め局面はボラティリティが高くなりがちだが、今回はさらに増幅される可能性が高い。今後の市場の大きな揺れには、留意が必要と思う。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 江島大輔)