eスポーツとオリンピック
北京冬季オリンピックが開幕した。中国はかなり早い時期から厳格に封じ込め措置を強いていたこともあり、コロナの感染状況については、大会の医療専門家委員会からは「想定内」との見解が示されている。ジャンプの高梨沙羅選手、フィギュアの羽生結弦選手など、ビハインドから駆け上がる感動シーンが既に多々あった。なかでも、日本の女子アイスホッケーの活躍には感動した。チェコやスウェーデンの競合国を破って決勝トーナメントに進むなど、男子アイスホッケーでは考えられないレベルの偉業で、選手の頑張りに脱帽である。
経済面に着目して過去のオリンピックを振り返ると、2008年に開催された北京夏季オリンピックは、巨額のインフラ投資や観光収入を含む消費の面で、中国経済に貢献した。リーマンショックと時期が重なったものの、中国経済の成長は2年後の上海万博まで続いていった。
一方で、今回は様相が違いそうだ。東京オリンピックに続いて一般客の観戦が見送られたことで、見込んでいた観光や消費の盛り上がりは期待できない。また、大気汚染対策の一環として工場の稼働制限も実施されており、鉄鋼生産などは抑制されていると聞く。昨年の東京オリンピックも、当初は2桁兆円規模の経済効果の予想が出ていたが、最終的には6兆円規模の効果とされている。今後のオリンピックは、パンデミック(世界的大流行)による観客制限という特殊要因が、経済効果へ大きく影響する可能性を踏まえておく必要がある。
インドネシアも、32年オリンピック誘致に敗れたあとで、既に36年オリンピックへの立候補に乗り出している。政府は18年開催のアジア大会の成功で経験を得ており、次の国際大会の招致に期待がかかっている。45年にかけての首都移転といい、発展するインドネシアに相応しいイベント開催が実現していくことを願いたい。
36年がどういう状況になっているのか見通すのは難しいが、ウィズ・コロナの時代が暫く続くとすると、インドネシアでも盛んなeスポーツ(electronic sports)が、着実に盛り上がりをみせてオリンピックの正式種目に入ってきていても不思議でないと思う。eスポーツとは、コンピューターゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の呼称で、インドネシアでは、大統領杯、ユース選手権、大学シリーズなどのさまざまな大会が開催されている。コロナ前の経験だが、モールの中央で異様な盛り上がりを見せている会場があり、覗くとeスポーツの競技会だった。先にあげた18年のアジア大会では、eスポーツが公開競技として熱戦が繰り広げられ、今年開催の中国・杭州でのアジア大会から正式なメダル競技となる予定である。世界的にも数多くの大会があり、競技人口は1億人以上、観戦者は約5億人とされる。
現状のeスポーツ市場は、中国と米国が中心で、市場規模としては2千億円弱とまだまだ小さい。ただ、コロナ禍による巣ごもり需要もあり、足元では2桁ピッチで成長を続けている。インドネシアにおいても、今後は欧州の大手や日系企業によるeスポーツ進出の可能性が報道されている。スマホ1台で参加できる今の時代、この競技への参入障壁は低く、人口の多いインドネシア市場をいち早く狙う企業が増えてきているのであろう。14年後までにオリンピックの正式種目となっているのか、興味深く見守っていきたい。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 江島大輔)