警察がKPK急襲 幹部の汚職摘発で反撃 「出向者を逮捕する」
国家警察は5日夜、警察幹部らが関与した大型汚職事件の捜査を断行し、対立が激化している独立捜査機関・汚職撲滅委員会(KPK)に警察官十数人を急派してKPKに出向していた捜査官に対し、過去の刑事事件に関与した疑いがあると逮捕状を突き付けた。KPKは警察が本部に踏み込むことを拒否した上で6日未明に緊急記者会見を開き、KPKに対する脅迫行為と警察を厳しく非難。警察が別の捜査機関に乗り込むという前代未聞の事態に、KPKの存続が危機にさらされた歴史的な日になったと警告した。(配島克彦、写真も)
国家警察が問題視したのは、警察からKPKに出向していた捜査官のノフェル・バスウェダン氏。国家警察中枢部を直撃した運転教習機材調達事業の汚職事件の捜査で、KPKの捜査担当の中心人物の1人とされるノフェル氏が、警察からの出向者であるにもかかわらず、上官の不正を摘発したことが警察幹部の逆りんに触れたとみられる。
警察によると、ノフェル氏は、ブンクル州警刑事局長(1999―2005年)の任期中、窃盗犯6人の虐殺事件に関与した疑いがある。5日夕、逮捕状を手にした同州警刑事局長や警視庁の警察官ら十数人が南ジャカルタ・クニンガンのKPK本部に乗り込んだ。
しかしKPKは、逮捕状は裁判所の承認を得ていないなど不備があるほか、虐殺事件をめぐる問題は2004年の時点で、すでに警察内部で決着していると反論。警察の一団は同日深夜までKPKのロビーで足止めとなり、数時間に及ぶ交渉は決裂し、引き返した。
同日夜、警察は同時に、北ジャカルタ・クラパ・ガディンにあるノフェル氏の自宅にも警察官を急派、家宅捜索に踏み切る予定だったが、自宅にノフェル氏や家族はおらず、実行されなかった。
「警察がKPKを急襲」とのニュースが広まり、6日未明、KPK幹部は押し掛けた記者団に対し会見を開き、警察がKPKに仕向けた一連の脅迫について説明。ノフェル氏については、当時部下が関与した虐殺事件の責任を取ったが、警察内部ではノフェル氏の内規違反はなかったと判断して決着しており、「8年前の事件を蒸し返す法的根拠は皆無だ」との見方を表明した。
KPKのアブラハム・サマッド委員長は「KPKに向けられた脅迫は頂点に達した」と危機感を表明。バンバン・ウィジョヤント副委員長は「ノフェル氏はすでに出向者ではなく、KPKの捜査官。KPKが身柄を守る」と述べ、警察の強硬措置に対抗していく姿勢を示した。
KPKは政府高官の汚職摘発や防止を目的に、2003年に設立された独立捜査機関。だが専属の捜査官はまだ少なく、警察官のほか、検察官や会計検査院(BPK)職員ら出向者が多い。
運転教習機材調達事業の汚職事件が発覚して以来、警察は出向者を連れ戻す方針を発表。これに対し、KPKは4日、警察を辞め、KPKに留まることを決意した警察官28人を、正式にKPKの捜査官として任命したと発表し、ノフェル氏はこのうちの1人だった。
国家警察のスタルマン刑事局長は6日、KPKに乗り込んだデディ・イリアント・ブンクル州警刑事局長らと国家警察で記者会見を開き、「ノフェル氏は窃盗犯の虐殺事件に関与した疑いがある」と改めて主張。KPKを陥れようという意図はなく、あくまで刑事事件の捜査の一環でKPKを訪れたと釈明した。
デニー・インドラヤナ法務人権副大臣によると、ユドヨノ大統領は、国家警察とKPKの両者から説明を受けた上で、8日にも記者会見を開いて一連の騒動への措置を発表する予定という。