ネット上でパプアに波及 米国の人種差別反対運動
白人警官による黒人男性の暴行死事件をきっかけに、米国を中心に広がる黒人差別の撤廃運動「ブラック・ライブス・マター(BLM運動)」の影響を受け、インドネシアではパプア人に対する差別撤廃を呼び掛ける動きが出ている。ソーシャルメディアでは「#PapuanLivesMatter」のハッシュタグを付けた投稿が拡散され、活動家や人権団体を巻き込みながら、ネットを舞台に活動が活発化している。
ツイッターのハッシュタグ「#PapuanLivesMatter」には、インドネシア当局による人権侵害を訴える投稿などが相次いでいる。そのひとつで、オーストラリア在住のパプア人女性が、独立を訴えてスピーチをする動画は多くのユーザーにリツイートされ、9日夕までに約42万回再生された。
パプアの人権問題を国際社会に発信しているフェロニカ・コマン弁護士も、こうした動きに連動し、同ハッシュタグを付けて多数投稿。また、「BLM運動は黒人のための人権運動の枠組みを超え、世界中に広がっている」として、パプア問題で声を上げるよう、呼び掛けている。
こうした流れの中で、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは5日、ウェビナーを開催。2010年から18年の間、パプア地方ではインドネシアの治安部隊による「超法規的な殺人」によって95人が殺害されたという調査結果を報告した。
また、パプア問題をめぐり不当な逮捕や暴力、言論統制といった人権侵害が横行しているといい、その実情を7月までに国連へ報告する方針を示した。
一方、インドネシア政府が昨年8月の大規模デモを受けてパプア・西パプア両州で実施した通信制限を違法としたジャカルタ行政裁判所の判決に支持を表明。「大統領と情報通信省の速やかな謝罪を望み、再発防止を強く求める」と訴えた。
アムネスティの発表はオンラインで行われたが、ウスマン・ハミド事務局長ら発表者の携帯電話に不審な電話番号からの着信が断続的にあり、オンライン会議アプリが使えず、ウェビナーが一時中断する一幕もあった。(高地伸幸)
◇ パプア問題 現在のパプア・西パプア両州は、1949年のインドネシア独立後も、蘭領ニューギニアとしてオランダの庇護下にあった。しかし、61年にオランダが西パプアとして独立させると、インドネシアが侵攻。米国による仲介を経て、63年に統治権がインドネシアに移管された経緯がある。
69年の住民投票を経て正式にインドネシアに併合されたが、投票のプロセスに不正があったとして、「自由パプア運動(OPM)」などの組織が武装蜂起。治安部隊との局地的な衝突は現在まで続く。
2019年8月には東ジャワ州スラバヤで、パプア出身の学生が差別的な言動を受けた問題がきっかけで、パプア独立の是非を問う住民投票を求める大規模デモが発生するなど、インドネシア政府による統治に対する反感が根強く残っている。