シラットに魅せられて (下) 道着姿の日イ交流 親友と再会
インドネシアの伝統武術「プンチャック・シラット」に魅せられ、日本で修業に励んできた萩原健さん(24)と久我和也さん(24)が、西ジャワ州ボゴール県で開催された国際大会「パクブミ・オープン」に出場した。
29日の大会当日、会場には選手とその家族ら約1千人が詰めかけた(大会運営担当者)。萩原さんと久我さんは、周囲のインドネシア人からの声援に包まれ、試合の合間にはセルフィー(自撮り)を撮るなど、道着姿の日イ交流を楽しんだ。萩原さんは「トゥンガル(型)」の部で5位に入賞。「タンディン(組手)」の60~65キロ級に出場した久我さん(24)は、白星を逃した。
萩原さんにとって、今回の大会出場には特別な意味があった。5年前、大学の研修で東ジャワ州マランを訪問した萩原さんに演武を披露し、プンチャック・シラットを始めるきっかけを作ったディディンさん(24)と、トゥンガルで対戦することが決まったためだ。
萩原さんとディディンさんは、SNSを通じて海を隔てた交流を続けていた。「タケルが日本で練習に打ち込む姿を見て、いつもモチベーションをもらっていた」とディディンさん。対する萩原さんも「親友であり、あこがれの選手。いつか世界大会で対戦できるよう、切磋琢磨したい」と返した。
トゥンガルでは3分間で、素手のほか、ゴロック(短剣)とトヤ(丈)を使った型を計100種類行う。動作の正確さや力強さのほか、攻撃時は目を見開いて敵を威圧し、型と型の合間では笑顔を見せるといった「表情」も重要な評価基準となる。武道が禁じられたオランダ統治時代、プンチャック・シラットを「舞踊」という形に変えて伝承してきたことが背景にあるという。
「力強さと表情の豊かさではディディンとも互角以上に戦える」と話す荻原さん。迫力の演舞で5位(390点)に滑り込んだ。対するディディンさんは425点を叩き出し、〝先輩〟の意地を見せつけた。
久我さんの出場したタンディンでは3分間のラウンドを3回行い、パンチ(1点)、蹴り(2点)、投げ技(3点)、相手の蹴りを掴んで倒す「カウンター(4点)」の総得点を競う。連続攻撃は6回まで行えるが、パンチは何発当てても1点しか加点されず、選手は高得点が狙える蹴りを軸に攻撃を展開するが、迂闊に繰り出せばカウンターを受ける恐れがある。相手の隙を突き、蹴りや投げ技を繰り出す「駆け引き」が重要になる。
久我さんは、第2ラウンドで得意の正面蹴りが決まってポイントを獲得するなど奮戦。しかし、経験で勝る相手選手に防戦に回る場面が目立ち、惜敗した。
■次の照準はベルギー
萩原さんは「試合では大差で負けてしまったが、型の力強さがディディンに認めてもらえた。インドネシアのベテラン選手とも渡り合えることが確認できた」と前を向く。
久我さんは、今回が初めてのインドネシアでの大会出場。「得意の前蹴りでポイントを取れたことは、大きな自信につながった」と手応えを感じる。
次の照準は、4月にベルギーで開催される国際大会「ベルギー・オープン」。本場インドネシアで得た経験を糧に、2人の挑戦は続く。(高地伸幸、写真も、おわり)