【火焔樹】不条理な世界への問い
「わが素晴らしき肉体の記憶(Kucumbu Tubuh Indahku)」(以下、「肉体の記憶」)がインドネシア映画祭で8冠を獲得した。男性間の恋愛、共産党、選挙戦など、インドネシアのタブーを「これでもか」とばかりに盛り込んだ意欲作。「人間の大地」のような分かりやすい大作が受賞するかと思っていたので、「肉体の記憶」がインドネシア国内で高く評価されたのは、うれしい驚きだった。
ことし見たインドネシア映画は「肉体の記憶」含め5本。個人的には「メイの27ステップ(27 Steps of May)」が一番好きだが、見終わった後に動悸が止まらず、余韻が大きかったのは「肉体の記憶」の方だ。さすがガリン・ヌグロホ監督、爪痕を残してくれる。見る者を深くえぐってこその、映画であり芸術ではないか。
初めて見たガリン・ヌグロホ監督作品は、ジョクジャカルタのストリートチルドレンを描いた「枕の上の葉」だ。見終わった後、あまりの衝撃に、席から立ち上がれなかった。「肉体の記憶」は、それに比べると明るい。途中に挿入される、チープで妙に明るい音楽も良い。エンターテインメント性が、芸術性やメッセージ性とうまく融合した作品だと思う。
主人公ジュノのモデルとなった舞踏家のリアント氏が「大人になったジュノ」役で出演し、「ジュノの回想」という形で物語が進む。リアント氏の語りや舞踊のシーンが挟まれることで、物語にインパクトと緩急が生まれている。もちろん、青年ジュノ役のムハンマド・カーンの演技も素晴らしい。
肉体に宿る宿命、業。「血だ、血ばかりだ」と叫び、自らの運命を呪うジュノ。運命に翻弄され、多くの喪失を経て、最後にようやく、自らの運命を肯定するかのように、さわやかな笑みを浮かべてみせる。不条理な世界への、答えのない問い。
15日のリバイバル上映を見ることを強くお薦めする。