【リトルインドネシアinアキバ】(2)「特定技能、だまされた」 観光ビザのインドネシア人 働けず、帰国もできず
台風19号が日本に接近した10月上旬、台風休暇を利用して、一人の技能実習生が東京・秋葉原の土産店「JSSインターナショナル」を訪ねた。実習を終えてインドネシアに帰国した男性の弟が、エージェントに55万円を支払って、4月に新設された外国人在留資格「特定技能」によって日本で働こうとしているという。弟は実習生のときは「缶詰の仕事」、今回のエージェントから聞いた仕事は「ホテル業」だった。
「同じ業種でレベルアップしないと、特定技能で来られない。これは100パーセント詐欺」。店主のアグス・スドラジャットさん(49)はすぐに感づき、ビザの写真を見せてもらうと、「観光ビザ」だった。アグスさんは、その場で男性と弟に電話し、支払いを止めた。
アグスさんは、だまされて来日したインドネシア人の相談を次々と振り返る。日本人が関係した〝詐欺〟と思われるような相談もあった。
大きなスーツケースを引いて来店した5人組。「すみません、アグスさんはいますか」。スーツケースには、まだフライト時に付けられる日本の空港名のシールが付いていた。「お願いがあります、私、仕事を探しています」。アグスさんはそう言われて在留資格を確認すると、観光ビザ。1週間以内に帰国しないと不法滞在者に……。ほか4人も「私も」「私も」と同じ観光ビザだった。
アグスさんが聞くと、5人は空港に着いてから、日本人に迎えられ、簡単な名刺のような紙を受け取った。茨城県内のホテルを用意され、「明日午前10時に迎えに来る」と言われた。しかし、待っても誰も来なかった。ホテルのスタッフに名刺の連絡先に電話してもらったが、「使われておりません」のアナウンス。夕方まで外で待ち、地元の実習生に助けられ、1泊し、アグスさんを頼った。
「こういう事例は一件じゃないです」とアグスさん。毎月5〜10人は店や電話で同様の相談を受ける。地方出身者の相談が多く、元実習生同士の口コミでエージェントの情報が広まっているようだった。エージェントからの書類は「わざと難しいインドネシア語」で書かれていた。
「元実習生たちはみんな日本に来たいので、お金を払ってしまう。しっかりと書類を見ないでだまされてしまう」とアグスさんは心配する。観光ビザで入国、不法滞在をすれば、今度は日本のエージェントを頼り、不法就労につながってしまう恐れがある。
不法滞在になる恐れがありながら、帰国できない事情を抱えたインドネシア人もいた。日本で働けると聞き、50万〜60万円を支払って来日した男女。持ち金は数千円だった。4、5日後に帰国しないと不法滞在だったが、帰国費用もなかった。さらに一人の女性は「帰国をしても親に会わせる顔がない」という。親が家などを抵当に100万円近くを借金し、捻出した渡航費用だった。
店の常連客が女性たちの帰国費用や滞在費を支援すると申し出たが、女性は「私の100万円はどうなるの」と支援を受け入れられなかった。
不法滞在になる場合、アグスさんは帰国することを勧めるが、強制はできず、彼らのその後は分からないままだ。(つづく)