【売られた花嫁】(1)いとこに売られ、中国へ 「裕福な暮らし」約束され・・・ 人身売買の被害者証言
インドネシア人女性が中国に花嫁として売られる被害が相次ぎ、両国の外交問題に発展している。「裕福な暮らしが約束される」「祖国に仕送りができる」——。言葉巧みに誘われ「買われた」女性が嫁ぎ先で虐待を受け、逃亡するケースも目立つ。何が起きているのか。逃げだした花嫁たちに会いに、西カリマンタン州へ向かった。
州都ポンティアナック市から車で4時間の、ダヤック人が暮らすランダック県の集落。「近所の人は娘のことを『身売りの子』『北京の子』と言って差別するのです」。人身売買の被害に遭ったワティさん=仮名=(29)の母親は、家の床に座りこみ、悲しい目でそう言った。ワティさんは、心にたまっていたものを吐き出すように、「いとこに売られた」過去を語り始めた。
◇
「ポンティアナックで男性と会わない?」。2018年6月、いとこの女がワティさんの働くコーヒー屋台を訪ねてきた。結婚相手の紹介だと理解した。
相手は中国人で、婚約すれば2千万ルピア(約16万円)をくれるという。当時の月収は100万~200万ルピア。2カ月前にインドネシア人の夫と離婚し、8歳と12歳の子どもを養っていかなければならなかった。「あなたさえその気なら、すぐにでも」。いとこにそう押され、その日のうちに、ポンティアナック市へ向かった。
翌日、市内のレストランで紹介された中国人男性は、ワティさんを見ると「OK」と言った。3歳年下でインテリア会社の経営者と名乗り、家や車の写真も見せてくれた。「家族に毎月仕送りできる」「2カ月に一度は帰国できる」。そう言われ、結婚を決意した。
7月の日曜日、同じレストランで婚約者から2千万ルピアと指輪を受け取った。ワティさんの父親や両国のブローカー、警察官と名乗る男も立ち合った。「もう婚約したから、(中国に)行かなかったら警察に捕まるぞ」。ブローカーはそうすごんだ。
パスポートを作るため、その足でシンカワン市の入管へ向かった。「目的を聞かれたら『マレーシアへ旅行する』と言うように」とブローカーから指示されたが、「中国で結婚する」と正直に話した。ブローカーはワティさんを怒った。
後日、ジャカルタの中国大使館でビザ申請のための面接を受けた。事前に、「中国へ行ったことがあり、婚約者とは知り合って6カ月」というシナリオが用意され、婚約者の情報も暗記させられた。婚約者の名前や生年月日を2回間違え、3回目の面接で通った。
10月、ワティさんは子どもたちを母親に託し出発した。「ママは出稼ぎする。2カ月に一度は帰ってくるからね」。付き添いの父親と2人で、ジャカルタ、北京を経由し、河北省にある夫の実家に向かった。写真で見た通りの大きな家だった。後に過酷な運命が待ち受けているとは、この時は知るよしもなかった。(木村綾、写真も)(つづく)