【トランスジェンダーのムスリム】㊦ 家族や地域とつなぐ 「土曜学校」で交流も

 ジョクジャカルタ特別州にある、トランスジェンダーのイスラム寄宿塾「ポンドック・プサントレン・ワリア・アル・ファタ」。社会や家庭で苦しい立場に置かれている仲間を支援すべく活動の幅を広げている。
 昨年には、トランスジェンダーとその家族で構成される「ファミリーサポートグループ」を新たに作った。溝が生じた当事者と家族の間に入り、再びつなぐ手助けをしている。
 「この間も19歳の子が中部ジャワ州からここに逃げてきたんです」。寄宿塾代表のシンタ・ラトリさん(56)によれば、カミングアウトを家族に拒絶され、家出するケースが多いという。中には住民登録証(KTP)を持たない人もいる。「KTPがなければ医療が保障されず、列車の切符すら買えない。家族に受け入れてもらえないことが、国民としての権利を失うことになりかねない」と危惧する。
 就労の壁もある。「役所も会社も工場も、偏見があり難しい。トランスジェンダーが認められるのは美容室くらいじゃないか」とシンタさんは言う。おのずと、性産業やプガメン(路上の歌い手)など不安定な仕事に就く人が増える。
 現在いる42人の生徒で最も多いのがプガメン。だが路上で歌い、チップを集めるプガメンは、2015年以降、州の条例で「物乞い」と見なされるようになり、警察の摘発が増えたという。地元の人権擁護団体と協力し、こうしたケースの法的支援にも乗り出している。

■見つけた「居場所」

 「地域の人に、もっとトランスジェンダーを受け入れてほしい」。そんな思いで5年ほど前から始めた活動もある。女性たちを寄宿塾に招いて、バティック(ろうけつ染め)製作や料理を学ぶ「土曜学校」。今では近隣の主婦がたくさん参加するようになり、交流が広がった。
 学校が休みの月曜日。寄宿塾の軒先では、ワンピース姿の女性が、シンタさんや寄宿生と話していた。「家が近いから、ここにはしょっちゅう来るの」とにこり。やがて、ピサンゴレン(揚げバナナ)を手にヒジャブ姿の女性もやってきた。おやつを囲み、井戸端会議の花が咲く。
 「彼女たちはホンモノの女性よ」。輪の中心にいたムードメーカーのヌル・アユさん(49)がそう笑う。
 トランスジェンダーのヌルさんには、つらい過去がある。
 「男のくせに女の子と遊んでいる」「お前、バンチ(おかま)だろ」。中学校に入ると、同級生にいじめられるようになったという。それが原因で中学を2年で中退。美容室やプガメンの職を転々とした。
 「いじめられるくらいなら、お祈りしない方がいい」と、大人になってもモスクには一度も行かなかったという。シンタさんと知り合い、7年前から、ここに寄宿するようになった。
 「友人たちと祈り、宗教を学ぶ。私が望んでいたことがここではできる」。「居場所」を見つけたヌルさんの笑顔は明るい。得意の料理の腕を生かし、ケータリングの仕事を受けつつ、今も時折、プガメンの仕事をするという。カラオケマイクを手に腰をひねり、「こんな風に踊るのよ」とおどけてみせた。(木村綾、写真も、おわり)

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