【ごみ山に追うシャトルコック(上)】バドで広げる可能性の輪 西ジャワ州ブカシ市 子どもたちの夢は代表選手

 将来は、バドミントン・インドネシア代表のギンティン選手みたいになりたい——。西ジャワ州ブカシ市に、廃棄物が積み上げられたごみの山やその付近に住む子どもたちが通うバドミントンチームがある。ことしで結成5年。大会やチームメートとの練習、世界選手との交流などを通して、可能性を広げている子どもたちを追った。

 チームの名前は「スプル・ビンタン(10の星)」。現在9歳から17歳までの34人がメンバー登録している。子どもたちはごみ山近くの小さな体育館で週に数回、専門コーチの下、練習に励む。
 メンバーの半数以上は、西ブカシ郡ビンタラジャヤにあるごみ捨て場に住んでおり、家族はごみを回収するなどごみ山で生計を立てていることが多い。中には学校に通わない子もいる。
小学校を中退
 「両親を助けようと思って自分で学校に行くことを辞めた」と話すのは、コマルディンさん(14)。小学校の中学年で中退、以来学校には通わず、両親と同じごみの山から売れそうな廃棄物を拾って集め、業者に売る仕事をしている。しかし、得られる金はわずかで、プラスチックごみ1キロを集めても5千ルピア、ペットボトルは1キロで3千ルピア、紙ごみは1キロを集めても1500ルピアにしかならないという。
 ノル・ホリックさん(15)は小学6年で中退、父親と同じく、ごみ山周辺の隣組(RT)のごみ回収をしており、週に2、3回朝に仕事をする。チームを支援する財団からの勧めで小学校の卒業資格は取得したが、中学校には進まなかった。「親とは学校についての話はしない」と言い、学校についてはあまり語らなかった。
 周辺に住み、チームの活動を手伝うマワル・アンジェリナさん(40)は「ごみ山に住む子どもたちにとって、両親と同じ仕事をするのはよくあること。すぐに見えない将来のことより、明日の金となるごみ拾いで稼いでもらうことを望む親も多い」と現状を語る。
 子どもたちがごみ山以外の環境に触れられる機会をと、このチームを立ち上げたのが、現在世界10カ国でバドミントンを通した慈善活動を展開する非営利団体「ソリバド(Solibad、本部・フランス)」と、ジョクジャカルタ特別州に本部を置くビンタン・キドゥル(Bintang・Kidul)財団だ。バドミントンクラブ「ビンタン・ソリバド・インドネシア」を作り、現在はブカシを含め全国に10チームを展開する。最初に結成されたのがごみ山のスプル・ビンタンだ。同クラブはインドネシアバドミントン協会(PBSI)に登録されており、大会出場も行なっている。
尊敬、感謝する気持ち
 コマルディンさんとホリックさんはほぼ結成当初からチームに所属、週4回ある練習には積極的に参加している。体育館では生き生きとシャトルコックを追いかけている姿が印象的だった。チームという社会に所属することや練習を通してコマルディンさんは「あいさつ、相手を尊敬する気持ちを教わった」と述べ、ホリックさんは「感謝する気持ちを学んだ」と話す。将来の夢について聞くと「(インドネシア男子代表の)ギンティンみたいなアスリートになりたい」と笑顔を見せた。
 練習終了後には、食事が出されるほか、合間に勉強を教えてくれる教師がいる日もある。チームの参加に費用は一切かからない。
 ソリバド創設者で代表のラファエル・サシュタさん(47)は「まず、子どもたちが自信を持つこと、今以外の道があることに気付く手助けをしたい。バドミントンは、(ごみ山で暮らす)環境以上のことがあると知るための手段であり、型にはまらないで考えるようになる手段でもある」と話す。 (つづく)(上村夏美、写真も)

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