朝霧漂う幽玄の世界 未解明の建造物も

 ボロブドゥール寺院の頂上でご来光を待つ。太陽の昇る東の方向を見る。ボロブドゥールから東25キロの距離にあるムラピ山(標高2930メートル)の右裾野に太陽が昇ってきた。山の頂上から噴煙が上がり、北の方に流れているのも見える。ムラピ山よ! 噴煙はこの程度にして、再びボロブドゥールや近隣の遺跡群を埋めてしまうような大爆発はどうか起こさないで、と祈る。
 広大なココナツ・ヤシ林に朝靄が漂っている。以前に訪れた時に見た昼間の陽光に輝く緑濃いヤシ林も良かったが、幽玄さを感じさせる今朝の風情は格別である。1200年前の建立当時も、同じ光景が見られたのであろうか。
 ムラピ山の北西方向にはスンビン山が見える。ここ中部ジャワには他にもメルバブ山など、円錐型の形の良い火山が多い地域である。日も上がり、徐々に明るくなってきた。ボロブドゥール寺院は全体で9層の階段ピラミッド状の構造となっている。上から順にじっくり見て回ろう。
 上から3層の円形壇に仏塔(ストゥーパ)と仏像がある。菱型の穴が幾つか開いている釣鐘型のストゥーパがあり、中に仏像が鎮座しているのが見える。また、むき出しの仏像も多い。中には首が切り取られて、痛々しい姿を露出しているのもある。釈迦如来像は慈悲溢れる優しい表情を見せてくれている。
 3層の円形壇を降りるとその下は5層の方形壇となっている。総延長5キロの回廊に仏教説話に基づいた1460面におよぶ浮き彫りレリーフが続いている。
 ボロブドゥール寺院は、カンボジアのアンコールワット(ヒンドゥー寺院から仏教寺院に変えられたもの)とミャンマーのバガン寺院群と共に世界3大仏教遺跡と言われる。ボロブドゥールが最も古く8世紀から9世紀に建造されたもので、他の二つは12世紀前後の建立である。なお、東南アジアの仏教は小乗仏教(上座部仏教)がメーンだが、ボロブドゥールは大乗仏教の寺院である。
 回廊の1460ものレリーフの中には、釈迦の生涯を描いている箇所もあるのだが、それを順を追って理解するのは難しかった。ボロブドゥール寺院の建立の頃の帆船とみられるレリーフもあった。多島国家のインドネシアであるので、このような船が島々を結ぶ重要な役目を担って行き交っていたに違いない。下まで降りた時には、朝靄がまだ残っていたが、しばらくすると晴れわたり、全景もくっきり見えるようになった。(「インドネシア香料諸島」=宮崎衛夫著=より)

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