【MRT特集】新しい移動のあり方へ インドネシア初の地下鉄 MRT南北線開通
日本政府が円借款を供与して建設した大量高速鉄道(MRT)が24日、開通した。長らく自動車やバス、オートバイが中心だった人々の移動のあり方に一つの選択肢が加わった。事業の意義・課題を振り返りつつ、既存の交通機関との融合や関連した事業の可能性について考えてみたい。
日イ両政府の合意から足掛け10年以上かけ、計約1250億円の円借款を供与して実現したのは、南北線第1区間のホテル・インドネシア(HI)前ロータリー駅(中央ジャカルタ)〜ルバックブルス駅(南ジャカルタ)区間(15・7キロ)で北部の区間は国内初の地下鉄となる。全13駅で所要時間は30分、6両編成。両端を結ぶ運賃は1万4千ルピア。土地収用に苦労したが、工期短縮により3月開業に間に合わせた。
24日の開業式典に出席したジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領は、MRT建設を画期的な出来事と強調。大統領選を控えてインフラ開発の成果の一つとして、アピール材料にしたい考えだ。
国際協力機構(JICA)によると、近年の円借款事業で土木工事・信号通信設備・車両調達まですべて日本企業が請け負った初めての事業だという。
2018年のジャカルタの経済成長率は前年同期比6・2%で、インドネシア経済をけん引している。渋滞が成長のボトルネックと言われてきた中でのMRT開通に、インドネシア政府は大きな期待をかける。
しかし、MRT駅にたどり着くには、オートバイやタクシーを使用しなければならない。試乗会には多くの人が参加したが、正式開業後の利用は順調に伸びていくのか。首都圏専用バス「トランスジャカルタ(TJ)」など既存の交通機関と比較して高い運賃の中で、地下鉄文化を根付かせるための努力も必要だ。
開通による市民の利便性向上や満足の先に、1キロ当たりの建設コストが高額な南北線北部延伸(7・8キロ)や、東西線(約32キロ)建設の青写真が見えてきそうだ。(平野慧)