「対話できる関係大切に」 任期終える兵頭理事長 きょうJJC役員交代
ジャカルタ・ジャパンクラブ(JJC)は十七日、年次総会を開き、新役員を選出する。JJC理事長として昨年四月から一年の大役を務め、きょう退任する兵頭誠之さん(インドネシア住友商事社長)は、インドネシア政府や商工会議所との対話に奔走したこの一年を振り返り、「対話ができる関係を大切にしないといけないと実感した」と話した。
理事長就任の前月、東日本大震災が起き、インドネシアでも政府や市民の間で支援の輪が広がった。兵頭さんも震災直後、カディン(インドネシア商工会議所)の幹部から電話を受け、「日本への支援について、大統領との間で話をするので、何が必要なのか教えてほしい」と聞かれたという。街頭ではすぐさま、元日本留学生らの募金活動も行われ、続々と支援や応援のメッセージも寄せられた。
「日本がこれまでODA(政府開発援助)などを通じ支援をしてきたことが評価された証。『世界の中の日本』を再認識した。今こそ、海外にいる日本人が頑張っていかなければと感じました」
■「できること全力で」
自粛ムードが広がる中、震災の翌週には、ジャカルタ首都圏の早急なインフラ整備や投資環境改善を日本とインドネシアが協力して進めていく首都圏投資促進特別地域(MPA)構想に基づいた第一回運営委員会会合がジャカルタで開かれ、日本からは菊田真紀子外務大臣政務官(当時)が出席。首都圏のインフラ整備に官民挙げて取り組んでいこうという雰囲気が醸成された。
「震災支援でできることをしながら、JJCのメンバーとして、在留邦人として、できることは全力で取り組んでいこう」と、五月にはバリで行われた三都市親善スポーツ大会に参加、七月には個人部会フェスティバルを開催した。
■ASEANワイドでも
法律との整合性の点で長年の課題になっていた財団組織の改編にも取り組んだ。スポーツ財団は再登記が完了。医療相談室は、二十一年間お世話になったメディカロカからジャカルタ中心部に移設する作業を進めた。「みなさんがこれまでと同様、今後も医療サービスなどを受けていける素地ができたと思う」と話す。
ASEAN(東南アジア諸国連合)ワイドでの活動も推進。七月には、マレーシア・クアラルンプールでASEAN日本人商工会議所連合会と日ASEANの経済担当相との初の会合が開かれ、投資や事業関連手続きなどソフト面のインフラの改善を要請。具体的に第三国からの輸入の問題が解決するなどの成果もあったという。
■「人間同士の関係大事」
投資環境に関するインドネシア政府への意見具申活動では、課税、通関・関税、労働、産業競争力強化、インフラの各委員会が継続的に活動を行った。
西ジャワ州ブカシの最低賃金問題では、治安確保の観点から、国家警察幹部との意見交換会を開催。邦人保護の対応をお願いする中で、警察側から「一つだけお願いがある」と切り出され、「日本側もインドネシアのコミュニティーとの関係作りに努力してほしい」と言われた。「人間同士の関係を築くのが大事」とハッとしたという。
「私も以前は『インドネシア政府は意思決定が遅い』などといろいろ文句を言っていたが、インドネシア政府の人たちと直接対話をする中で、これだけ日本人社会を受け入れ、JJCのメッセージを受け止めてくれるというのはすばらしいことだということを認識した。会社の若い人たちにも『例えば、同じように欧州の人が東京で投資環境の改善を求めたとしたら、日本は受け入れることができるだろうか』と話している。インドネシアが受け入れてくれることを当たり前のように感じているが、勘違いしてはいけない」
■「継続は金なり」
理事長職を終えるのと合わせるように帰任が決まった。来月中旬には日本に帰国する予定だ。二〇一〇年四月からの二年間と短い駐在期間だったことから「これから自身の仕事に注力できると思っていたところでとても残念。日本の文化を伝える役回りを担っているジャカルタ日本祭りも、自分の中では中途半端で終わってしまった」と心残りを語るが、本社の執行役員(電力インフラ事業本部長)として、引き続きインドネシアにかかわっていくという。
「この一年は、理事長職や会社の仕事や会合で、朝、昼、夜がそれぞれ一日分の濃度があって、一年が千日以上だった感じです」と猛スピードで駆け抜けた一年を振り返る兵頭さん。
「意見具申活動も祭りも『継続は金なり』。在留邦人が増加している中、これからも引き続き頑張っていってほしい」と次期理事長にバトンを託した。