「誤った儀礼の天罰」 被災者に広まるうわさ 地震当日の イベントめぐり
中部スラウェシ地震・津波をめぐり、発生当日の9月28日に行われた観光促進イベントで土着民カイリの儀礼「バリア」が間違った形式で行われたことに対する「天罰」とするうわさ話が広まっている。うわさに科学的根拠はないが、先住民の伝統や信念への配慮を欠くと受けとめられる行為は、思わぬ反発を招くことがあり、単なるうわさとして軽視することはできない。
カイリの間でバリアは本来、医者や薬で治らない病気を癒やしたり、豊作を祝して自然に感謝したりする目的で現在まで山で執り行われてきた。そうした儀礼を司る人の役目を継承するための儀礼もあり、一般大衆の目に入らない場所で営まれてきた。
問題のイベントは、同じくカイリのヒダヤット市長が就任1年目に立ち上げた、市主催の観光・スポーツイベント「フェスティバル・プソナ・パル・ノモニ(FPPN)」。観光促進のため、バリアなどの儀礼は「伝統芸術」とされ、形式や作法を変えられ、山の中ではなく会場の海岸で行われてきた。
2016年に初開催されたが、このときは強風や大雨による洪水が発生。17年も同様の自然災害があった。
そして今回の大震災。被災地では「間違った儀礼で悪魔を呼んだ」と市長らを非難する声が続出、市内に掲げられた市長のポスターを住民が破り捨てたり、「震災直後、市長が雲隠れした」などとの風評が飛んだりし、今後のイベント開催の取りやめを求める抗議活動も行われた。
イベントについて、儀礼を司る7代目の正統継承者ムハンマド・ナピスさん(通称トマイラヤ)は、じゃかるた新聞に「祖先の代から儀式を行う人物は決められており、昔からのしきたりに沿った手順で行わなければ災いが起きる」と述べ、観光イベント化に警告を発する。
中部スラウェシ州立博物館のイクサム・ジョリミ副館長(51)は「それまで記録がなかったこともあり、継承者から話を聞いて12年にカイリの罰則についてまとめた冊子を作成したが、13年以降に発行されたものは、イベントを主催した行政側の意向に沿い、開催を肯定する内容に改変されている」と指摘した。
パル市のヨハン・ワフユディ広報担当は「インフラ復旧を最優先するため、来年は開催しない見込みだ」と説明した。(中島昭浩、写真も)