【生体肝移植自立へ】(上)子どもを救う最後のとりで 日本の技術支援、最終段階に 笠原群生医師 国立成育医療研究センター
インドネシアで日本の生体肝移植の技術移転が最終段階を迎えている。中央ジャカルタの国立チプト・マングンクスモ病院(RSCM)で2月中旬、国立成育医療研究センターの笠原群生医師(52)の技術支援の下、2件の生体肝移植手術が行われた。今回を含め、手術は約3年で37件。宗教的背景もあり脳死による臓器移植が困難なインドネシアで、小児末期肝不全患者を救う最後の希望となるのが生体肝移植手術。笠原医師らによるインドネシア人医師の育成は順調に進み、早ければ3月にも肝移植センターが立ち上がり、単独手術が行われる。
移植後の患者生存率は89.2%、生体ドナーへの合併症事例は出ていない。RSCMで胆道閉鎖症などを患う2人の移植手術が行われたのは18、19両日。外国人医師による技術支援は、インドネシア医師会の協力と保健省の許可を受け行われる。18日には、西ジャワ州デポックの2歳の男児が母親から、19日には同州プルワカルタの1歳未満の男児が父親から、それぞれ肝臓が移植された。手術は午前7時に始まり午後8時ごろまで続いた。2組の親子とも術後の経過は良好という。
肝臓は再生能力が強く、健康な人の場合、65%を切除しても、約1年後にはほぼ同等な大きさまで再生するといわれる。しかし、切開して臓器の一部を取り出す処置を行う以上、常に合併症のリスクがあり、臓器を提供するドナーの負担は大きい。
笠原医師は「やらなくていいならやらない方がいい」と話す。しかし、他に頼る術がなく、このままでは近いうちに間違いなく死を迎えると考えられる我が子のために親はドナーとなり、我が身を裂いて子どもの未来への希望をつなぐ。さらにその治療が、一時的な救命ではなく、これから健康な人と同じような日常生活を送れるようになるためのものなら、その期待はさらに大きなものになる。
生体肝移植は同時に二つの手術が進行する。ドナーの肝臓の一部を取り出し、受け手となるレシピエントの血管や胆管とうまくつながるように調整する。レシピエントの肝臓を取り出し、ドナーの肝臓と血管、胆管などをつなぎ合わせる。合併症のリスク、術後の拒絶反応、感染症、病気の再発——のリスクがあり、多くの熟練した医師や医療スタッフによるチームが必要となる。
RSCMは2015年4月、国立成育医療研究センターと技術支援で提携した。シンガポールの病院から笠原医師の話を聞いたトリ・ヘニング・ラハヤトリ小児外科医が日本を訪れ、笠原医師に直接技術支援を頼んだ。RSCMは10年から生体肝の移植支援プログラムに取り組んでおり、中国やシンガポールの病院と提携していた。しかし、その約4年間で手術件数は7件。手術チームの技術向上につながる定期的なプログラムにはならなかった。(つづく)(太田勉、写真も)