新しい日本研究を模索 UI国際シンポジウム AKB48もテーマに
インドネシア大(UI)大学院日本地域研究科(KWJ)は十二、十三日の両日、「日本研究の新しい視点を模索して」をテーマに国際シンポジウムを開催した。急変するアジア太平洋地域の状況を踏まえ、旧来のアプローチに代わる新たな日本研究の視座を用意するため、若手研究者を中心に多様なテーマの発表が行われた。
日本からは国際交流基金ジャカルタ日本文化センターの小川忠所長、東京外国語大学留学生日本語教育センターの内海孝教授のほか、昨年、戦時中にインドネシア各地を巡回した小説家・林芙美子研究の合同セミナーを同大で開いた日本大学芸術学部の山下聖美准教授、同学部修士課程の藤野智士氏が参加した。
基調講演でUIのイ・クトゥット・スラジャヤ教授がインドネシアにおける過去三十年間の日本研究を概観。同大文学部(現在・人文科学部)日本学科(一九六七年設置)では、日本語、文学・文化、社会、歴史の専攻に分け、六〇年代から「日本学」を受け継いできた。しかし、すでに時代にそぐわなくなり、旧態依然の研究は現在の日本を知るために役立つどころか、むしろ日本に対する誤解を招くとの危機感を表明した。
今回は若手研究者を中心に多様な事例研究の発表の場となった。日本のパブリック・ディプロマシー(小川氏)にはじまり、近代日本誕生前夜の幕末期におけるバタビアの位置づけ(内海氏)、一九三〇年代の日本の文化政策に対するインドネシア知識人の受け止め方(スーシー・オング日本地域研究科副主任)、太平洋戦争期の日本女性の地位(UIのフィトリアナ・プスピタ・デウィ氏)などは、日イの歴史に新たな光りを当てる試みだ。
災害大国の日イが共有する重要課題である震災復興では、仙台市の児童館を事例に市民福祉システムが直面する課題に関する発表も行われた。二〇〇九年の民主党政権誕生と経済政策、高齢化社会、増加する高齢者の自殺などでは、日本の事例を日イ両国、東・東南アジアの状況を視野に入れて掘り下げる意欲的な見解も示された。
文学では、林芙美子について、ともに修士課程の学生である藤野氏とUIのフィトリアナ・プスピタ・デウィ氏が各論を展開。フィカ・イルマ・サフィトリ氏は、二〇〇七年の芥川賞作家・青山七恵を取り上げ、高卒のフリーターの女性が主人公の小説「一人日和」を分析。日本の若者が直面する社会状況などにも言及した。
■ 「サブカルで覇権か」
現代日本が世界に発信するポップカルチャーの研究は、自ら吸収してきた若手ならではの視点で展開。プトリ・アンダム・デウィ氏はオタクの定義やイメージなどについて、東浩紀や中森明夫、岡田斗司夫などの議論を援用しながら論じた。
東ジャワ州マランの国立ブラウィジャヤ大学日本語学科のエステル・リスマ・プルバ学科長は、パフィーなどのロックやポップス、インドネシアでも何度も再放送されているテレビドラマ「おしん」、AKB48やJKT48のジャカルタ公演、両国で展開する芸能活動などの映像を多数紹介しながら概説。
参加者からは「文化を通じた日本の覇権ではないか」「JKT48はインドネシアのグループ。日本ではバティックを着て活動してほしい」などの声も聞かれた。
エステル氏は、文化侵略的な発想は多様な文化を同時に楽しむ現代の若者に必ずしもあてはまらないと強調。「ソフトパワーといった国家間の権力争いを示す用語で論じるのではなく、日常生活に浸透している趣味の対象としてサブカルチャーを論じたい」と語った。
シンポジウムを企画したスーシー氏は、発表者と学生の間で活発な議論が生まれ、知的交流が行われたと感想を語り、国際シンポジウムなどを通じて日本の理解を深め、今後の日本研究の発展に寄与してきたいとの抱負を示した。