国会議長、最後の抵抗 今度は交通事故で入院 身分証の調達事業汚職事件

 独立捜査機関の汚職撲滅委員会(KPK)は16日、電子住民登録証(e―KTP)調達事業予算の不正流用事件で、再び収賄容疑者に認定したスティヤ・ノファント国会議長(ゴルカル党党首)を指名手配するとの構えを示した。スティヤ氏は党幹部を通じ、出頭する意向を伝えたが、同日夕、交通事故に遭ったとして入院した。追い詰められた同氏による最後の抵抗が続いているが、党の古参幹部らも自首を促している。 

 KPKは15日深夜から16日未明にかけ、南ジャカルタ区クバヨラン・バルにあるスティヤ氏の自宅を約5時間にわたり家宅捜索し、同氏の妻などと面会したが、同氏には連絡が取れず、そのまま引き返した。
 16日には、ゴルカル党のアブリザル・バクリー最高顧問会議議長を参考人として事情聴取。事件当時、党の国会会派代表だったスティヤ氏と他の党幹部との関係などについて聴いた。
 7月に容疑者に認定されて以降、スティヤ氏はKPKの事情聴取を拒否する一方で、KPKの捜査方法を問題視し、独自に調べる特別調査委員会を国会に設置。KPK幹部を喚問して味方に付けるなどKPKの内部対立を生じさせたり、与野党共闘体制で政治問題化したりすることでKPKに対する妨害工作を激化させていった。

■事業者の不審死
 電子KTP調達事業は、KPKが手掛ける汚職事件の中でも最大規模。事業予算は5兆9千億ルピアだが、国家に与えた損害額はその3分の1を超える2兆3千億ルピアに上る。スティヤ氏は事業発案の中心人物の1人とされ、計画段階から内務省幹部や事業者らと協議を進めてきた。
 これまでKPKは約40人に上る関係者を捜査し、スティヤ氏関与を裏付ける証言も得たが、裁判では採用されず、判決文でスティヤ氏の関与が言及されたことはない。
 スティヤ氏は予備審理を請求して勝訴し、収賄容疑は無効になった。これを受け、KPKはスティヤ氏を再度容疑者に認定するため、これまで入手困難とされていた有力な証拠を確保したとされる。
 地元メディアによると、新証拠は、事業を受注した米国在住のインドネシア人実業家、ヨハネス・マルリム氏が保管していた録音物。スティヤ氏ら複数の事業関係者との間で交わした会話を記録したものとみられる。
 生体情報記録装置を調達する企業を立ち上げ、事業の計画段階から関わったヨハネス氏は、スティヤ氏の汚職関与を裏付ける有力な物証になるとしてKPKに提供すると申し出ていたという。
 ヨハネス氏はKPK捜査官に対し、取引材料として、政府に未払いの事業費1兆2千億ルピアの完済を要求。さらに事業に関する汚職事件で自身を訴追対象から外すことを条件として提示したとされる。
 しかしKPKはこれを拒否。その後、8月になり、ヨハネス氏は米ロサンゼルスにある自宅で不審死する。拳銃で自殺したと伝えられたが、米連邦捜査局(FBI)は自宅の現場検証で500ギガバイトに及ぶ音声記録を押収。FBIの捜査協力を得たKPKはこの記録を主要な新証拠として確保し、スティヤ氏の容疑者再認定に踏み切ったとみられる。
 また、同事件は有力者が絡む大型汚職事件としての側面だけでなく、17歳以上の全国民が所持を義務付けられている身分証の新事業として社会的影響も大きい。電子KTPの個人情報登録では、各地の役所で、写真撮影や指紋採取などデータ登録を終えたにもかかわらず、電子KTPのカードが発給されずに各種行政手続きができないなど、不満を抱える市民が続出している。
 ゴルカル党最高顧問会議副議長でもあるユスフ・カラ副大統領は16日、スティヤ氏に「もう出頭すべきだ」と促し、党勢を悪化させないためにも、これ以上党として擁護できないとの姿勢を表明。スティヤ氏に代わる新党首の選定を早急に進める必要があると話した。
 スティヤ氏はこの日、弁護士を通じ、KPKに同日夜に出頭するとの意向を伝えたが、移動中に南ジャカルタで電柱に激突し、自損事故を起こしたとしてプルマタ・ヒジャウ・メディカ病院に入院。頭部に包帯を巻いてベッドに横たわる写真を公開した。
 同氏は出頭を命じられた9月にも体調急変を理由に入院したが、予備審理で勝訴した直後に退院して公務に復帰したため、「仮病説」が噴出した。(配島克彦)

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