二輪車市場に回復の兆し アストラ・ホンダ・モーター 井沼俊之社長
インドネシアの二輪車販売台数は、2011年の800万台超えをピークに、減少傾向が続いている。インドネシア二輪車製造業者協会(AISI)の発表した昨年の販売台数(工場出荷ベース)は593万台。その厳しい状況の中、ことしに入り、登録費用の値上げやローン規制の厳格化など、さらに市場を冷え込ませるような規制や措置も重なっている。しかし、アストラ・ホンダ・モーター(AHM)の井沼俊之社長(59)は「小売は回復に向かっている」と話す。二輪車市場の現状と今後の展望について聞いた。
――AISIが年初販売見込みを下方修正している。状況は?
井沼社長 ことしは年明け早々、車両登録などに掛かる処理手数料の大幅値上げや金融庁(OJK)の規制による混乱で、二輪車市場は厳しいものとなった。当社も1〜4月の小売販売は非常に厳しい数字となっている。
――厳しい状況は続く?
6〜8月の直近3カ月の小売り販売は回復している。3カ月連続で40万台を超えた。連続3カ月で40万台を超えるのは14年以来で、その年AHMは505万台販売している。
――二輪車市場は回復していくのか?
まだ、手放しに喜べない。季節要因として、もともと6月はレバラン(断食月明け大祭)前の売りやすい時期、7月は新学期が始まるなど販売が伸びる時期でもある。その後8月は多少落ちてくる傾向だが、ことしは順調に推移している。
二つの見方がある。一つ目は、4カ月の買い控えの反動が、レバラン賞与(THR)や農家の収穫期による現金収入によって刺激され、販売が増えた一過性のものという見方。もうひとつは、実体経済の回復によるものという見方で、工場やプランテーションのワーカーなど二輪の主たる購買層に活性化の兆しが出始めているという捉え方。景気回復の先行指標と捉えるかは、これから2、3カ月の動きが正念場となる。
――井沼社長の捉え方としては?
データを見ると、これまで販売に苦戦していたエリアに回復が見られる。スマトラ島のゴムやパームオイル農園、カリマンタン島の鉱業事業が動き出し、販売が回復傾向にある。東高西低が続いていたジャワ島でも、首都圏、西ジャワ州のインフラ工事や都市開発工事が始まり、二輪車の購買層であるワーカーの収入改善につながり販売が増加している。
しかしながら、低価格モデルが好調な一方で、趣味的な側面のある高価格帯スポーツモデル群は未だ改善していない。二輪車市場は、このスポーツ市場が戻ってきた時に本当の意味で回復軌道になったといえる。我々としてはその時に合わせ、いつでもアクセルを踏み込む準備はできている。
――今後の予想は?
我々独自の計算では、15年に二輪の保有台数は6千万台を超え、30年に向けても、人口増に伴い保有台数は穏やかながらも拡大していくと認識している。現在の新車販売市場は600万台を割っている。一時の800万台と言う数字は中国による資源価格高騰などの影響といわざるを得ないが、インドネシアには、700万台の販売ポテンシャルは充分にあると考える。(太田勉、写真も)
いぬま・としゆき 82年、一橋大学経済学部卒。本田技研工業入社。二輪研究所、国内二輪営業を経て、二輪事業企画室長、二輪営業部長を歴任、13年4月より現職。シンガポール、タイ、インドネシアと海外駐在は3カ国目。ことしで14年目を迎える。59歳。東京都大田区出身。