熱帯林保全計画が再始動 カリマンタンの森に拠点 ダンサー田中泯さん
農業と舞踏の同時実践を目指すダンサー、田中泯(みん)さん(六六)が、東カリマンタン州西クタイ県の熱帯林を借り切り、原初的な自然の中で芸能と森林保全の活動拠点を創る計画を再始動させる。許認可問題などで二〇〇六年に頓挫したが、今回、田中さん自身が日本からカリマンタンへ拠点を移し、生命、文化の発祥の地である森に溶け込み、人間と自然の共生を世界へ訴えていく。
田中さんは子どものころから、赤道直下の生命はどのようなものなのか関心があり、いつか見てみたいと夢を抱いていたという。〇四年、バリ島を訪れた際、あちこちにある巨木に圧倒された。カリマンタンにも渡り、熱帯林に出会う。
「日本では植林したような森ばかりだが、あるがままの広大な森が広がっていた」。生命の源泉のような熱帯林。この森が危機に瀕している状況を目の当たりにし、誰にも伐採されないようにするために借り切ることを提案。地元の住民や自治体の賛同を得たが、複雑な手続きなどで思うように進まなかった。
県知事や林業相の交代などを経て、ジャカルタでこのほど、西クタイ県の住民が主体となって設立した「熱帯の森(フタン・ブダヤ・ルマウン・カトゥリスティワ)財団」と覚書を締結。田中さんとインドネシア側のコーディネートをしてきた高城芳秋さんが立ち会い、今後の計画について話し合った。
田中さんによると、借りる熱帯林の面積は一万五千ヘクタールに上るとみられ、東京二十三区の緑地に匹敵する。しかし、国有の保護林に指定されているにもかかわらず、アブラヤシ農園の造園が進み、森は急激に消失している。
この熱帯林の使用権を取得し、永遠に伐採されない熱帯林として保全活動を展開。日本などから美術家、建築家、音楽家、各分野の研究者、熱帯林保全に関心のある若者らを呼び寄せ、地元の人々とともに自然との共生を実践しながら「やりたいことを見つける場」にしたいという。
例として未知の事象に満ちた熱帯林に関する研究、アブラヤシ農園に依存せず、バナナ栽培などで収入源を確保する住民支援、インターネットを通じた森の様子の生中継、寝泊まりできる村の創出やエコツアーなど、さまざまな企画を考えている。「カリマンタンの森は世界共通の資源。伝統的な知恵と新しい思考をミックスさせ、人類が守っていくために工夫していきたい」
田中さんは一九六〇年代、クラシック・バレエやモダン・ダンスを学び、ダンサーとして活動。内外の舞踏祭や演劇祭に参加してきた。映画「たそがれ清兵衛」(二〇〇二年)で日本アカデミー賞助演男優賞、新人俳優賞を受賞。NHK大河ドラマ「龍馬伝」(一〇年)では土佐藩士・吉田東洋を演じ、圧倒的な存在感を示した。
「踊りの宝庫」であるインドネシアに拠点を移し、多様な生命が激しく動く赤道直下で生まれてくる表現を模索する。「踊りは人に見せるために創るのではない。自然の中に身を置き、自分の内側から湧いてくるもの。まず森の中に足を運んでみることが大切だ」