リュック一つで災害放送 神戸のNPOなど支援 バックパックラジオ 火山周辺村落で導入へ
大災害が起きた時、放送機材をリュックに詰め込んで被災地に駆け付け、すぐに災害放送を始められたら――。そんなアイデアを形にした可搬型の放送機材「バックパックラジオ」をインドネシアに導入しようと、神戸市のNPO法人エフエムわいわいや現地のコミュニティーラジオ協会が実用化に取り組んでいる。
国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業の一環で実施する。事業期間はことし7月から4年間で、来年2月以降、ムラピ山(中部ジャワ州、ジョクジャカルタ特別州)、シナブン山(北スマトラ州)、クルッド山(東ジャワ州)の各火山周辺村落で導入し、防災力強化につなげる。事業費は約6530万円。
バックパックラジオのアイデアは2014年、横浜市のフリーライター、瀬戸義章さん(34)が開発したスマートフォンアプリがきっかけで生まれた。
瀬戸さんは11年の東日本大震災発生直後に被災地で復興支援に携わった際、「り災証明書の申請方法や交通情報など、ラジオの情報が役立った」との声を多く聞いたという。そこで、ラジオ放送に必要なミキサーや音楽再生、マイクの機能を併せ持つアプリを技術者の友人らと開発した。
「スマホと小型の送信機とアンテナさえあればラジオ放送ができる。格安で、すぐに放送でき、災害時にも役立つ」。エフエムわいわいにアイデアを話したところ、支援実績があるインドネシアで導入を目指すことになった。
エフエムわいわいは阪神・淡路大震災直後から在日外国人に災害情報を発信、1996年に多言語のコミュニティー放送局を開局した。ノウハウを生かし、2007年にはインドネシアのコミュニティーラジオ局と交流を始め、災害ラジオ局の開設や防災番組作りなどを支援してきた。
エフエムわいわい理事の日比野純一さん(54)によると、日本で災害が起きた場合、車で放送機材を現場に運び、放送局を開設するのに約1週間かかる。一方バックパックラジオはすぐに開設でき、テントなどの狭いスペースでも放送できるメリットがあるという。
これまで放送機材の運び込みが困難だった離島などへも運べるため、日比野さんは「災害時の重要インフラになる可能性がある」と強調する。「インドネシアで成功させ、他国にも広めていきたい」と意気込む。
現在はインドネシア・コミュニティーラジオ協会など現地団体と共に、実用化に向けて取り組んでいる。電気がない場合も放送できるようソーラーパネルを搭載するなど、趣向を凝らしていく。
ただ、国によっては電波の管理が厳しいところもあり、実際の運用には行政を巻き込んでいく必要がある。同協会代表のシナム・スタルノさん(38)によると、インドネシアでは災害ラジオ放送に関する規制が未整備で、政府と議論を重ねながら実用化を目指すとしている。(木村綾)