都市部の減災目指し 「互いの経験共有を」 東大の2教授 UIで災害国際シンポ

 インドネシア大学(UI)大学院日本地域研究科卒業生同窓会と同大心理学部危機センターは二十一日、西ジャワ州デポックにあるUI日本研究センターで国際シンポジウム「日本に学ぶ―都市社会の脆弱性と減災への予防策」(後援・国際交流基金)を開催、日イの専門家が都市部の減災について意見交換した。まもなく東日本大震災から一年が経ち、ともに災害大国であるインドネシアと日本が、震災の経験、教訓を共有し、より効果的な復興につなげようと企画した。(高橋佳久、写真も)

 シンポジウムは、日本地域研究科卒業生同窓会が日イで得た経験を生かそうと二〇〇六年から「日本に学ぶ」をテーマに開催しているもので、今回が四回目。これまでに交通問題や廃棄物などさまざまなテーマを議論してきた。
 同日、鹿取克章・駐インドネシア日本大使、国家災害対策庁(BNPB)のシャムスル・マアリフ長官のほか、日本から東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター長の田中淳教授、東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学国際研究センター長の目黒公郎教授らが出席。大学の都市計画研究者やジョクジャカルタ特別州災害対策機関(BPBD)の職員ら、中央政府、地方政府などの関係者とともに、パダン市などの政府関係者や防災を専門とするNGO(非政府組織)のほか、UIの学生ら約二百五十人を前にそれぞれの専門分野に関する発表を行った。
 冒頭で鹿取大使があいさつを行ったあと、「都市部における国家政策と災害リスクの減少」と題した第一セッションでは田中教授が発表。東日本大震災時の津波警報の情報入手先について、五二%が行政の防災無線、二〇%ほどの人がラジオ経由で、電力で動くテレビなどを通じた情報を入手できた被災者は七%に過ぎなかったことなどを例示し、津波発生時の避難行動、意識分析など災害を情報活用の点から解説した。
 午後から行われた第二セッションでは、目黒教授が復興に関する災害マネージメントや震災時に倒壊した家屋の補強、基幹産業の復興に向けた提案を行った。
 目黒教授は災害マネージメントに関して「東日本大震災でも自助、公助、共助が上手くかみ合っておらず、災害対策基本法にも限界があり、改正が必要」と指摘。政治や防災の科学者らが自分の領域に閉じこもることなく、協力して正しい制度設計に取り組む姿勢が必要と訴えた。
 また、「間違いだらけの地震対策」(二〇〇七年)といった著書などを通じ、家屋の耐震補強の必要性など、地震被害の軽減のための対策や備えを広く呼び掛けている目黒教授は、阪神・淡路大震災では犠牲者の九〇%近くが自宅の被害で命を落としたとのデータから「建物が倒壊しなければ、津波から逃げることができたとされるケースがほとんど」として、耐震補強を一層促進していくための技術や社会制度の仕組み作りが必要と話した。

都市部の被災経験貴重
 UI心理学部危機センター長のディッキー・プルペッシー氏は今回のシンポジウム開催の経緯について「インドネシアは確かにアチェやジョクジャなどの災害に関する蓄積は持っているが、都市部での経験は少ない。関東や阪神、東日本大震災など、都市部での災害を経験してきた日本の蓄積を共有し、インドネシアの災害対策をより強固なものにしたい」と考えたという。
 今後のインドネシアの、特に情報伝達の観点からの災害対策について、田中教授は「インドネシアは都市部の住民間での格差があることなどから、必ずしも日本と同じ対策を講じることができるわけではない。しかし、インドネシアにはコミュニティー間のつながりが強く、これを上手く利用することが重要」と指摘。「インドネシアでは防災訓練などが高いレベルにあり、地域で協力することで減災につなげることができる」と話した。
 インドネシアから日本が学ぶことについて、目黒教授は、震災後の被災者の心のケアを挙げ、インドネシアでは宗教心が重要な役割を果たしていることを強調。「日本では震災後に『なぜ自分だけが生き残ってしまったのか』といった気持ちを自分だけで抱え込んでしまう人が多くおりPTSD(心的外傷後ストレス症候群)を発症する人が大勢いた」と話し、「インドネシアには日本と違い、宗教心が強く、地域のモスクなどで、万人を諭す人が身近にいる。こうした人が人々を罪の意識から解放する役目を果たしてくれる。日本も見習う点だ」と話した。

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