工事再開した高速鉄道 ワリニ駅建設現場を訪ねて ジャカルタ〜バンドン
中国が受注したジャカルタ〜バンドン間の高速鉄道建設では、ジャカルタのハリム、西ジャワ州のカラワンとワリニ、バンドンのトゥガル・ルアルの四つの駅の設置が予定されている。オランダ植民地時代からの茶畑やゴム林が美しい山中にある、ワリニの新駅建設現場を訪れた。
■1年前は重機放置
2016年1月にジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が起工式を行なった場所はここから約2キロ離れている。翌2月に私がそこを訪れたときは、一人の作業員も見かけず、パワーショベルなど数台の重機が放置されていた。近くの食堂の人に聞くと、工事が止まっていると教えてくれた。その後も工事が再開したという情報はなく、私は1年余りずっと気になっていた。
今回も高速出口を出て現場に近づくまで約1時間、土砂を運ぶダンプカーとすれ違うこともなかった。ところが現場に着くとゴム林が伐採され、赤土の幅の広い道路がかなり先まで延びていた。
前回と同じ食堂のアイさんという女性が話をしてくれた。この先のチクダ村まで工事が進んでいる。工事が再開してからは、関係者が毎日数回店で飲食をしてくれた。
高速鉄道が完成したら乗りますかと聞くと、「今でもバンドンやジャカルタに行くことはないから乗らないでしょう。でも駅が近くにできて多くのお客さんがこの店に来てくれたらうれしい。完成が何年先になっても待ちますよ」と話した。
■「ピッチを上げる」
現場監督のロジャックさんに話を聞いた。工事は半年以上止まっていたが、昨年9月に再開した。現在チクダの丘と言われる高台をパワーショベルで崩し、土砂をダンプカーで運び、駅を建設するための整地作業を進めている。平日は午前9時前から午後5時まで、土曜は正午まで約30人が働いていて、近くの村の民家を借り上げて作業員の宿舎にしている。中国人関係者もよく視察に来るという。
ことしは雨期が長引き大雨で工事ができない日も多かったが、これから乾期に入るので人員や重機を増やし工事のピッチを上げていく。ここから2キロ先では大規模なトンネル工事も始める予定だという。
ロジャックさんはインドネシアの大手建設会社ウィジャヤ・カルヤに勤め、ジャカルタの大きな建設現場などで何度も現場監督を務めたベテラン。
国家プロジェクトであるインドネシア初の高速鉄道建設の現場監督という責任ある仕事を任され、誇りに思っている。生まれ故郷でもあり親戚も多い村の近くを通るので、開通したらみんなで乗ることが楽しみだという。
■問題は土地収用
工事を統括する企業連合、高速鉄道インドネシア・中国(KCIC)によると、土地収用問題で工事が遅れている。ジャカルタ〜バンドン間約140キロのうち40キロが高速道路沿いの工業団地を通るため、日系工場など約10社の敷地や建物と重なることが最大の懸案事項だという。
現在重機での工事が始まっているのは、多くが国有地にあり土地の収用が進むワリニ駅建設用地周辺だけ。しかし幹線道路からワリニの工事現場までの道路はまだ舗装されていない。高速の出口からも約1時間かかる。これらはインドネシア側の問題でもある。
首都ジャカルタとインドネシア第4の都市バンドン間は、1日に14万人が移動するという。車は増える一方で渋滞する高速道路は時間が読めない。40分で結ばれる予定の高速鉄道は必要だと思う。しかしその工事が軌道に乗るのはまだ先のことだろう。とはいえ中国政府もこのプロジェクトの完成には国の威信がかかっているから真剣だ、とKCICの広報責任者フェブリアントさんは強調した。(紀行作家・小松邦康、写真も)