「新しく、ほっとする風景を」 震災復興の経験共有 東北大の小野田教授
南ジャカルタのスミットマスにある国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは二日、「災害復興期の都市計画とコミュニティデザイン―日本とインドネシアの経験から―」と題し、両国の震災復興に関する知見、経験を共有することを目的としたラウンドテーブルディスカッションを開催した。復興支援を建築の面から取り組むネットワーク「アーキエイド」の設立発起人の一人である東北大学の小野田泰明教授を招き、インドネシアからは二〇〇四年のスマトラ島沖地震・津波などの災害復興に関わった経験を持つ研究者や非政府組織(NGO)職員、建築家、ジャーナリストなど約三十人が議論を交わした。
冒頭で小野田教授は東日本大震災の映像を流し、災害の様子を伝えた後、災害に対し、建築家が被災地について多くの提案を行ってきたことを説明。しかし、日本で災害支援を行う際には行政構造が幾十にも絡まり合っているために支援の困難さを実感し、そのため行政機関に依存しない震災支援のプラットフォームが必要と判断、アーキエイドの設立に至ったという。
またアチェの復興に関わってきた西スマトラ州パダンのブンハッタ大学のエコ・アルファレズ副学長や、ジョクジャカルタ建築士の会でプログラム・コーディネーターを務めるユリ・クスウォロ氏が震災後の復興支援について説明。
多くの建物が被害を受けたことなどが原因で、建物の機能性を求めるあまりに、デザインが近代的な箱モノ建築になってしまった事例や、被災者の自発的な復興活動、復興支援における建築家の役割、行政など支援側と被災者の間で生じる意見の相違など、多岐にわたる問題について議論が交わされた。
日本では政府が「早く、すべてを解決する」ことを目指すため、あまりに多くのことを抱え込んでしまい、返って災害復興が遅れている。しかし、インドネシアでは政府の力がそこまで強くないために、住民など、ボトムアップの力が活用され、復興がなされたことなど、日本とは異なる手法が浮き彫りになった。
今回の議論について、小野田教授は「津波による被災からの復興活動を先んじて行っているインドネシアの人々からの意見は説得力が違う。ボトムアップの重要性を言葉にするだけでなく、実践しているインドネシアからは参考にすべきところが多くあった」と語り、被災後、建築家などに頼らず、早期に寝る場所や食べる場所だけを市民が自ら建設し、確保する「小さな家」づくりは、日本にも必要とされているとの認識を示した。
また災害復興に伴う日本の都市計画について、ただシェルターのような家を作るだけでなく、「建築家がデザインなどを提案し、ツーリズムなどと絡めて付加価値を高めていくことで、経済だけでなく、地域の人の気持ちも変わってくる」と指摘。復興計画について「新しいけれど、ほっとする不思議な風景を提案していきたい」と意気込みを語った。(高橋佳久、写真も)