国軍司令官に解任説 大統領が否定 デモ黒幕追及に焦点
ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領は9日、イスタナ(大統領宮殿)で、ガトット・ヌルマンティヨ国軍司令官の解任説が出ているとして、「解任する予定はない」と否定する異例の会見を開いた。4日に起きた反アホック・ジャカルタ特別州知事デモに対する治安当局の措置をめぐり、デモを利用する政治勢力が政府批判を強めており、大統領はデモ暴徒化の黒幕や大統領侮辱発言などを厳重に取り締まる構えを見せている。
ジョコウィ大統領は会見で、「ガトット国軍司令官はこれまで責務を果たしてきた。うわさを広めた者を突き止めるよう、ティト・カルナフィアン国家警察長官に指示した」と明らかにした。
ガトット司令官も「ここ数日、昼食も共にするなど、大統領に同伴している」と述べ、大統領と国軍の間に問題はないことを強調した。4日のデモで、ガトット司令官は現場でティト警察長官と共に治安部隊を指揮し、沈静化を図っていた。
一方、大統領はデモ以降、イスラム団体幹部らとの対話を進めている。大統領は同日、イスタナで複数のイスラム団体代表らと会談、「国民の対立を激化させず、冷静を呼びかけていることに感謝したい」と述べ、国家警察が進めているアホック氏の捜査には介入せず、不信感を持たれないよう捜査過程を公開していくとの方針を改めて伝えた。
会談では国内最大のイスラム団体、ナフダトゥール・ウラマ(NU)のマーフッド元憲法裁判所長官、NU自警団「アンソル」代表、ラスルラ評議会代表らが出席した。
しかし、イスラム団体からはアホック氏には法的措置を講じるべきだとする意見が根強い。イスラム学者会議(MUI)のディン・シャムスディン最高顧問会議議長は同日、同会議の協議の結果、アホック氏の発言はコーラン侮辱に当たるとの見解を発表した。「非寛容的で他宗教への憎悪増大や社会的混乱を引き起こす」と指摘。大規模デモ動員に正当性を与えたMUIの見解を改めて強調する内容となった。
国家警察は7日、宗教冒とく容疑で刑事告発されたアホック氏を事情聴取した。アホック氏は発言について繰り返し謝罪し、「過ちが認められれば刑務所に入る用意もある」と述べている。
一方、大統領はデモやネット上で、憎悪を増大させる「ヘイトスピーチ(増悪表現)」を行う者の取り締まりを強化する方針を表明。警察は4日のデモで、ムスリムにとって最も侮蔑的な「豚」「犬」などの言葉で大統領を非難したとして、大統領支持団体が刑事告発したミュージシャンのアフマッド・ダニ氏の捜査を開始。さらにデモに参加した野党・福祉正義党(PKS)のファフリ・ハムザ国会副議長の演説についても、国家転覆の疑いの有無を調べていると説明した。
ファフリ氏は、デモ動員の中核組織イスラム擁護戦線(FPI)のハビブ・リジック・シハブ代表や、グリンドラ党のファドリ・ゾン国会副議長らと街宣車に乗り込み、大統領退陣を呼びかける演説をした疑いが持たれている。(配島克彦)