汚職撲滅法 改正延期 大統領 KPK弱体化を阻止
ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領は22日、大統領宮殿(イスタナ)で国会幹部と協議し、汚職撲滅法改正案の審議を延期させることで合意したと発表した。通信傍受の許認可を統括する内部機関の設置などを盛り込み、汚職撲滅委員会(KPK)を弱体化させるとして改正案反対運動が拡大。大統領が識者の見解などを聞き入れて審議延期の決断を下した。(配島克彦)
ジョコウィ大統領は、アデ・コマルディン国会議長(ゴルカル党)や各委員会、会派の代表らと審議を優先させる法案について協議。会談後の会見で「国会における政治の動向を尊重している」としたうえで、汚職撲滅法(2002年制定)の改正は延期することで合意したと発表し、「国民に周知するために十分な時間が必要だ」との見解を表明した。
アデ国会議長は「改正案審議は延期するが、審議予定の法案リストからは削除しない」と説明。KPKを強化するために国民に説明し、完全な法案を策定していきたいと理解を求めた。
これまで国会では、大統領の所属政党・闘争民主党(PDIP)やゴルカル党が改正案審議を主導し、連立与党の賛同を得てきたが、野党のグリンドラ党や福祉正義党(PKS)のほか、反対運動拡大を受けて民主党が反対派に転じた。
非政府組織(NGO)の汚職監視団(ICW)によると、全国各地の大学教授23人が法案反対を表明する書簡を大統領に送付。イスラム団体代表ら宗教指導者も21日、KPK幹部と会合を開いて反対声明を出した。
権限縮小に躍起
改正案ではKPKの権限縮小に関する条項が問題視された。特に露骨な弱体化の動きと非難されたのは通信傍受の権限はく奪で、昨年9月時点の改正案では裁判所の許可取得を義務付けた。これに対する批判を受け、国会はKPK内部に正副委員長を監督する上部組織を設置し、通信傍受の可否を決定する権限を付与するとの代案を提示した。
また通信傍受は容疑認定後と期間を限定し、賄賂授受の現行犯逮捕を可能にする通信傍受の無効化を図った。監察組織幹部は大統領が指名するとし、外部者が同組織を通じ捜査に干渉しやすくなり、KPKの中立を維持できなくなるとの批判も続出した。
さらにKPKに捜査を中断させる権限を与えると規定。KPK設立以降、認定した容疑者全員を起訴し、ジャカルタでは被告全員に有罪が下されてきたが、捜査から起訴への過程でKPKに圧力をかけ、不起訴処分に持ち込むことを想定した条項だと批判された。
またKPKが独自に捜査官を登用する権限を廃止し、警察官や検察官の出向者に限定すると規定。KPKの捜査方法にも警察や検察と同様に刑訴法を適用するとし、現職の閣僚や地方首長ら政府高官を捜査する際、大統領からの許可取得が必要になるとの懸念が出た。
国会が強行採決で法案を成立させた場合、辞任すると明言したKPKのアグス・ラハルジョ委員長は同日、記者会見で審議延期を歓迎し、大統領の決断をたたえた。
KPK捜査官 不起訴処分に 最高検
最高検察庁は22日、過去の刑事事件で虐待の容疑者に認定、捜査していた汚職撲滅委員会(KPK)のノフェル・バスウェダン捜査官の捜査を中止し、不起訴処分にすると発表した。
警察出身のノフェル氏はブンクル州警刑事部長当時の2004年、部下が起こした窃盗犯虐待事件に関与したとして捜査対象となってきた。警察とKPKの対立が激化した12年に一時拘束され、対立が再燃した昨年5月にも同じ事件で拘束された。最高検は虐待関与を裏付ける証拠が不十分だったと述べ、事件発生から12年と公訴時効も成立したと説明した。
ノフェル氏はアニス・バスウェダン文化・初等中等教育相の親族。国家警察幹部の汚職捜査を担当し、12年当時、警察からの出向者だったノフェル氏が上官の不祥事を暴いたとして警察幹部がKPKに押し掛け、同氏に逮捕状を突き付けたことがある。