「今は民主主義の時代」 差別再燃に警戒強く ジャカルタ在住の華人 首都知事選
第1回投票で惨敗したファウジ・ボウォ陣営が、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)氏の副知事候補のバスキ・チャハヤ・プルナマ氏がプロテスタントで華人であることを取り上げ、中傷キャンペーンを展開したことに対し、ジャカルタに住む華人は反発と警戒感を示すとともに、バスキ氏とペアを組んだジョコウィ氏が、行政をより開かれたものへ変えていくことに期待を寄せている。
ほぼすべての住民が中国にルーツを持つ北ジャカルタ・プルイットのムアラ・カラン・ラヤ通りの住宅街。バスキ氏の自宅も近くにあるという公園に複数の投票所がまとめて設置された。
祖父が中国福建省出身のピン・チュアン・スハルナさん(40)は、ファウジ氏の副知事候補のナフロウィ・ラムリ氏がテレビ討論で、華人なまりのインドネシア語をあえて話している姿を見て、「『チナ』と呼ばれて差別された小学生時代を思い出した」と嫌悪感を示し、「インドネシア、特にジャカルタはさまざまな民族が生活している。差別的な態度を取る人間はリーダーとして適切ではない」と語気を強める。
華人に差別的な政策を取ったスハルト政権期に比べ「今は随分変わった」と語るが、行政手続きの際に華人はチップを払うことを求められるなどの差別は残っており、ジョコウィ氏が知事になれば「平等になる可能性もある」と期待する。
この日も赤い中国風の飾りを売る店でにぎわっていた西ジャカルタの華人街グロドックには、中国寺院「金徳院」の前に投票所が設置された。
主に華人が標的となった1998年のスハルト政権崩壊時の5月暴動の際、「この辺は家がめちゃくちゃに破壊された」と振り返るアシオンさん(50)。父が福建省出身のアシオンさんは選挙で民族問題が論点に上がったことについて、「また暴動や破壊活動があるんじゃないかという心配があったが、今日も平和そのもの。今は民主主義の時代なんだ」と笑顔で語った。
南ジャカルタ・ポンドックインダに住む華人実業家ヘンドリ・プリバディさん(65)は「『オバマ米大統領は黒人だから』と批判することがナンセンスなように、出自を問題視することは冷静に物事を判断できる有権者には嫌われる。米国と同様に、インドネシアにも成熟した民主主義が根付き始めていると思う」と指摘する。
「スハルト政権崩壊以降、華人を差別する法令は撤廃され、言論の自由が保障されるようになったが、今回の知事選のように特定の宗教や民族を平然と差別する役人もいる。新知事には、私利私欲を捨て国家への貢献を第一に考えることを期待したい」と語った。
父親が福建省出身で中央ジャカルタ・チデンに住む男性(65)は、ジョコウィ氏がバスキ氏とペアを組んだことについて「これまでのムスリム同士のペアよりも、親しみを持つことができる」と語った。(配島克彦、関口潤、堀田実希)