TPP参加「見切り発車」 矛盾する政策も 「開かれた市場」遠く
ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領がオバマ米大統領に環太平洋連携協定(TPP)参加を表明したことに対し、国内からは利益と損失の予測ができておらず「見切り発車」との批判が出ている。参加には法整備など課題は山積みで、未成熟な国内産業への打撃になるとの懸念は根強く、大統領が掲げる「開かれた市場」への道のりは険しい。
商業省APEC・国際機関協力局のデニー・ワフユディ・クルニア局長は地元メディアに対し、TPP参加による国内への影響について、まだ十分な議論がされておらず、予測できる段階ではないと話した。
TPPは物品やサービスの貿易の関税撤廃・削減に加えて投資や競争、知的財産、政府調達など非関税分野のルールを含む高度な包括的協定。労働者の権利や環境保護など新しい分野も含まれる。日本を含む参加国12カ国で大筋合意に達しており、インドネシアが参加する場合は交渉参加国が決めたルールに従う必要がある。
■改革に外資規制緩和
国際戦略研究所(CSIS)経済センターのヨセ・リザル所長は、TPP参加に必要な改革として外資の投資規制の緩和のほか、知的財産権の整備、国営企業や国内企業への優遇措置の撤廃、政府事業への外資企業の参加許可などを挙げた。
政府は分野ごとの外資出資比率規制「ネガティブリスト」を定めている。陸上交通ターミナルや航空管制など外資の出資を禁じている分野もある。国営企業は電力のPLNなど多くが優遇を受けている。
参加にはさまざまな法律を改正するため、国会の協力を得る必要がある。民主党のエディ・バスコロ幹事長は「参加を決めるより先に、利益と損失を計算すべきだ」と批判。自由化で外資との競争にさらされる業界からも強い反発が出そうだ。
政府のことしのネガティブリスト改正では外資規制を緩和した分野がある一方で強化した分野もあった。7月には広範な製品の輸入関税を大幅に引き上げるなど、TPPの参加表明とは矛盾する政策も多くみられる。
■輸出競争不利に
TPPには東南アジア諸国連合(ASEAN)からはマレーシアとベトナム、シンガポール、ブルネイの4カ国が参加。ジョコウィ大統領が参加を表明した背景にはこれらの国との輸出競争で不利になるとの焦りがありそうだ。
繊維・繊維製品や靴は米国が一番の輸出先だが、TPPが発効すれば競合するベトナム製品の米国での関税は撤廃されるとみられる。インドネシア繊維協会(API)のエルノフィアン・イスミー事務局長は、インドネシア製品には2割の関税がかかっており、不利になると指摘。「参加しなければ競争力を失う」と参加を求めた。マレーシアとは主要輸出産品である天然ゴムやパーム油で競合している。
インドネシア経営者協会(アピンド)国際関係投資部会のシンタ・ウィジャヤ・カンダニ会長は「原則として支持する」とした上で、「しっかり利益と損失を見極めなければならない」とけん制した。英字紙ジャカルタポストは専門家の話として「経済危機を乗り切るための先進国の道具」であり、参加は「自殺行為だ」と報じた。(堀之内健史)