鈴木雅明さん初公演 バッハをオルガンと指揮で
チェンバロ・オルガン奏者で、日本を代表するバッハ演奏家である鈴木雅明さん(61)が22日、中央ジャカルタ・クマヨランのホール「アウラ・シンフォニア・ジャカルタ」でインドネシア初のコンサートを開いた。
曲目はすべてJ・S・バッハ。1曲目は幻想曲ト長調BWV572を、鈴木さんが自らオルガンで演奏。管弦楽組曲第1番ハ長調BWV1066やマニフィカト・ニ長調BWV243など4曲で指揮を務め、ジャカルタ・シンフォニア・オーケストラと合唱団のジャカルタ・オラトリオ・ソサイエティと共演した。
バッハは宗教改革で知られるルター派の厳格なクリスチャンで、多数の教会曲を作曲・編集。鈴木さん自身もクリスチャンで、今回のコンサートはキリスト教というつながりで実現。アウラ・シンフォニアではクリスチャンのスティーブン・トンさんが中心となり、教会やホール、学校、博物館を建設し、キリスト教の文化や教えを積極的に広めている。鈴木さんは西洋文化にそれほど染まっていないインドネシアで大勢のクリスチャンが集まり、熱心に活動を続けていることに感銘を受けたという。
日本や欧米に比べると演奏技術はまだまだで、曲を仕上げるのにも苦労したという。「宗教的な面だけでなく、バッハの音楽的な遺産を伝えたいという思いが伝わってきた。この機会が良い刺激になってこれからもっと上達してもらえたらうれしい」と振り返った。
宗教を超える音楽
会場にはムスリムの姿もあった。「宗教の違いで対立する時代ではない。キリスト教徒の音楽だからとユダヤ教徒やムスリムは毛嫌いしないし、今では音楽を互いに享受できている」と話す鈴木さん。むしろ宗教を持たない多くの日本人について「無宗教だからどんな宗教にも入り込めると思われるかもしれないが、どんな宗教とも根本的な部分から分かち合うことが難しいのではないか」と語った。
鈴木さんは古楽器演奏・合唱団の「バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)」で音楽監督を務め、演奏会を開いたり、2013年には18年間を費やしバッハの「教会カンタータ」全曲録音(全55巻)を完成させたりするなど、世界に向けてバッハの宗教曲を発信し続けてきた。
バッハの音楽を通して「一人一人の心の中の平和」に訴えかけたいという。「平和とは単に戦争がないことではなく、一人一人が考える心の中にある平和を実現すること。宗教は心のよりどころで、それぞれの文化の背景となるものだが、日本では宗教を持たない人が多く、平和に関しても共通した価値観がないため、おのおので幸せの価値を探さなければならない。そういった点では、宗教を大切にしているインドネシアの人々の方がずっとハッピーに見える」
約1400席の会場は満席。最後はスタンディングオベーションした観客から、温かい拍手が送られた。鈴木さんは言う。
「バッハの音楽は人を幸福な気持ちにさせてくれるんだ」(毛利春香)