「儲けているなら投資を」 人気のブラックベリー データセンター義務付けで 政府とRIM社が綱引き
国内で五百万人以上の利用者がいるとされるスマートフォン「ブラックベリー」事業をめぐり、インドネシア政府と製造元のリサーチ・イン・モーション(RIM)社との間で、駆け引きが続いている。スマートフォンの競争が激化し、ブラックベリーが世界市場で苦戦する中、インドネシアは利用者が世界でも有数の伸びを見せる有望市場。そこにつけ込んだ通信情報省は、近隣国に生産拠点などの設備を構える方針を発表したRIM社にインドネシアへの投資を迫っている構図だ。
ティファトゥル・スンビリン通信情報相はこのほど、国際通信サービス業者に対し、来年初めにも国内にデータセンターを開設することを義務付ける政令を発行する準備を進めていると明らかにした。
地元紙は、同相がRIM社を主なターゲットにしていると一斉に報道。政府系機関の通信規則委員会(BRTI)は、「ブラックベリーのチャットサービスやインターネットサービスの停止は可能」と強硬姿勢を見せつつRIM社と協議を進めている。
通信相は「主に国際的な通信ネットワークサービスを提供する業者を対象にデータセンター開設を義務付ける。すでに、業者には通達した」と語った。通信情報省によると、現在、情報・電子取引法の運用細則となる政令の草案を作成しており、来年初めの施行を目指している。
ブラックベリーは、暗号化されたデータが国外に送られ、センターで処理されるため、追跡が難しいとされ、犯罪に利用された場合の捜査が困難になる。汚職やテロなどの犯罪を助長する懸念があるほか、ブラックベリーを経由した通信情報が他国で保管されるのはリスクがあるという安全保障上の問題が大きな理由。しかし、生産拠点を持たずに輸入だけで販売を急速に伸ばすRIM社に対し、インドネシアへ一定の投資を求めるべきとの認識が政府高官の間で広がっているのも事実だ。
通信相はこれまでRIM社にデータセンター設置、サービスセンター拡充といった条件を提示。RIM社は年内に条件を満たすと約束しつつ、今年に入りマレーシアに生産拠点、シンガポールにデータセンターを置くことを決定し、政府関係者の神経を逆なでした。
■「政府側の改善必要」
一方で、インドネシアの通信インフラや法整備の遅れを指摘する声も上がっている。インドネシア商工会議所(カディン)のスルヨ・バンバン・スリスト会頭は「政府側に改善すべき点もあるはずだ。生産拠点をマレーシアに選ぶのも何か理由があるに違いない」と投資家の立場からコメント。マレーシアは、IT(情報技術)インフラの整備が進んでいることを指摘し、「まずはITインフラ整備が先決だ」と語った。
◇規制、販売で問題に
米アップルがアイフォーンに搭載するiOS、米グーグルが開発したアンドロイド、米マイクロソフトのウィンドウズフォンなどスマートフォンの覇権争いが世界で激しくなる中、RIM社の東南アジア最大の市場となっているインドネシア。昨年末時点で三百五十万人とされた利用者は今年すでに五百万人以上に達しているという。
RIM社とインドネシア政府との間では、これまでにも規制や販売をめぐり、あつれきが生じてきた。二〇〇九年五月には、国内に利用者向けサポート拠点を持たないとして販売認可を一時凍結。一〇年には、イスラム保守系の福祉正義党(PKS)出身のティファトゥル通信情報相が肝入りで進めたポルノ規制でも、ブラックベリーのデータセンターをめぐり、設置を強く要求した。通信情報省によると、RIM社とは昨年、データセンターの設置を含めた約束をしているという。
RIM社は先月二十五日、世界初との触れ込みで当時の最新機種をインドネシアで発売。南ジャカルタの高級ショッピングモールで行われた半額セールでは、客同士や客と警官などの間で衝突が起き、九十人が卒倒、十数人がけがをする惨事となった。
イベントは中止され、警察は、RIMインドネシア社のアンドリュー・コブハム社長を業務上過失傷害の容疑者に断定し、海外渡航を禁止している。