「安心してパンが食べられる」 東京・三田の「リエゾン」 日本初のハラルベーカリー 店員もイ人らムスリム
日本初となるハラル認証を取得したパン製造販売店が21日、東京・三田の慶応大学正門近くに開店した。「ハラルベーカリーカフェ リエゾン」で、販売するパンやスイーツ、飲み物類の食材から調理設備までハラル認証を取得。店員の多くがインドネシア人8人を含むムスリムの女性だ。20日の内覧会にはヒジャブ(スカーフ)を巻いた客も訪れ、「同じムスリムが作っているので安心して食べられる」と期待している。
同店は岡山県でパン製造販売を行う「おかやま工房」が運営する。同社は未経験者のパン屋開業支援事業を行っており、無添加パンを製造し、生地となる米粉や小麦粉はハラル認証を取得したものを使用する。調理設備を除菌、消毒する際にはアルコール成分を含まない液体を用いる。
現在15人いる店員のうち13人がムスリム。インドネシア人のほかエジプト、シリア、ブルネイ人で留学生が多い。全員日本語を理解できるがパン作りは未経験なため座学でパンについて学び、日本人スタッフの指導の下、製パン研修を受けた。「ムスリムやイスラム圏から日本に観光で訪れる方、もちろん日本人まで、喜んでもらえるパンを提供します」と同社代表兼CEO(最高経営責任者)の河上祐隆さん(53)は話す。
10年前ジャカルタ在住の日本人からパン屋を開いてくれ、と相談を受け初来イした。「日本の高度成長期のような活気を感じ、日本のパンを広めたいと思った」という。2008年中央ジャカルタに「PAN―YA」の名でプロデュース店を開いた。現在までにバリに直営店2店舗、ジャカルタにプロデュース店7店舗を運営する。
今回の開店にはハラル認証の取得準備や店舗探し、スタッフの指導などで1年かけた。「港区内には大使館が多く、留学生も来やすい。日本人にとって接触機会が少ないムスリム人と触れ合う文化交流の場にもなってほしい」と話す。
同店ではムスリムの雇用についても積極的だ。工房には礼拝スペースも設置されている。日本語のマニュアルを見ながらパン生地に使う生卵を割っていたコユさん(27)は入店して1カ月。西ジャワ州ブカシ市出身。ジャカルタの日系自動車会社で働いていたが「他の国に住んでみたい」と半年前に来日した。日本語専門学校に通いながらアルバイトで働く。「安心して仕事できるのがうれしい。将来は国でパン屋をやれたら」という。
人気メニューのチキンカレーパンの具を詰める作業をしていたウランさん(28)。スマトラ島のジャンビ州出身で3年前来日し、現在立教大学大学院で日本文学を専攻する。今回が日本で初めてのアルバイト体験。何社か面接に行ったことはあるが「ヒジャブを取れますか」と聞かれ断ってきたという。「ここで新しい体験ができて楽しい」と話す。将来は母国の大学で日本語を教えるという目標をもつ。
店内には30種のパンやピザが並ぶ。内覧会に来た東京工業大学に留学するインドネシア人のナビラさん(24)は「ふわふわもちもちしていて、どれもおいしい」と満足げ。これまでハラル食品を扱う店で食パンを買っていた。「ここには種類がいろいろあってうれしい。同じムスリムが作っているので、何よりも安心」と笑った。 (阿部敬一、写真も)