半旗掲げ、弔花拒否も メンテンの北朝鮮大使館 職員が頻繁に出入り
北朝鮮の最高指導者の金正日総書記が死去したとの報を受け、十九日午後、北朝鮮国旗の半旗が掲げられた中央ジャカルタ・メンテンにある北朝鮮大使館前では、頻繁に職員が出入りする姿が見られ、緊張した空気が張り詰めていた。
北朝鮮大使館は、ジャカルタ中心部のオフィス街から一キロと離れていないメンテンの一角にある。閑静な高級住宅街の中の一軒を使用。赤い瓦屋根は一般の一戸建ての住居のようで、国旗を掲げていなければ大使館だと判別することは難しい。出入りするのはトヨタやスズキなどの真新しい日本車だった。
近くにあるチキニの花市場から来たというトラックには「お悔やみ申し上げます」とのインドネシア語が添えられた菊の花が荷台一杯に積まれていた。北朝鮮人から注文があったというが、大使館は受け入れを拒否。そのまま引き揚げていった。
人民服のような服装の大使館職員とみられる女性が「ヘイ」と声を上げながら、地元カメラマンを押しのける一幕もあった一方、大使館職員の住居にもなっているという大使館敷地内には、無邪気に駆け回る子どもの姿も見られた。
大使館前を訪れた地元の記者たちは「『自由を!』とか叫んだら撃たれるんじゃないか」と緊張した面持ち。「絶対に名前は書かないでくれ」という地元紙記者は「(金総書記の死去は)日本や韓国にとってはハッピーな知らせだろう。ただインドネシアでは関心は高くなく、それほど大きなニュースにはならないだろう」と語った。
取材に訪れていた韓国の通信社・聯合ニュースの特派員イ・ヨンジュ記者は「今日の午前中まで韓国も米国も何も知らなかったというのは信じられないことだ。特別ニュースがあるといい、黒い服を着たアナウンサーが現れたときにはとても驚いた」と語った。
大使館に取材を申し込む電話を掛けると「何も答えることはできない」の一転張り。南ジャカルタ・クバヨラン・バルにある北朝鮮レストラン「平壌館」に電話をすると、「これから三日は店を休む」とだけ伝えられた。実際に店の前まで足を運んだ邦人によると、室内は電気が付いていたが、店が開いていないことを知らせる張り紙があった。店員は店を休む理由については言葉を濁したという。
◇北朝鮮と長い友好関係 等距離外交のインドネシア 曽我さん再会の舞台にも
イ・ヨンジュ記者が「(インドネシア初代大統領の)スカルノ氏と(金正日総書記の父である)故金日成主席は親密な関係にあった。北朝鮮は韓国よりも長く、インドネシアと外交関係がある」と説明するように、「等距離外交」を掲げるインドネシアと北朝鮮の両国は長く、良好な関係を維持してきた。
スカルノ氏は一九六四年に北朝鮮を訪問し、金日成主席と会談。六五年には金主席がインドネシアを訪問。少女だったスカルノ氏の長女であるメガワティ前大統領と訪問に同行した金正日総書記が顔を合わせている。金主席の訪イ時にはスカルノ氏がインドネシアの植物学者が品種改良した蘭科の熱帯植物を「金日成花」と名付けることを提案。七五年には北朝鮮に運ばれ、金主席を象徴する花となっている。
メガワティ氏は大統領在任時の二〇〇二年に北朝鮮を公式訪問し、金正日総書記と会談。大統領退任後の二〇〇五年にも訪問。今年九月にも訪問したが、総書記の体調不良を理由に会談はキャンセルになったとされる。
二〇〇四年七月には、北朝鮮による拉致被害者である曽我ひとみさんと夫のジェンキンスさんが再会する中立地としてジャカルタが選ばれ、日本をはじめ各国メディアが大挙して訪れた。
今年七月にバリで開催したASEAN地域フォーラム(ARF)では、会期中に韓国と北朝鮮の首席代表が二年半ぶりに対話を行うなど、両国の雪解けムードを演出した。
ジャカルタは北朝鮮の首都ピョンヤンと姉妹都市提携も締結している。