【火焔樹】 バリ島の眠れない夜
日本から来た友人らと一緒にバリ島の東海岸に行った。新学期を翌週に控えた息子はこれが最後のチャンスとばかりに朝早くから泳いだり、たこ揚げをしたりして遊びに夢中。疲れて宿の部屋に戻った息子の頭を触ると熱があった。
頭痛も訴えたが横になれば収まるだろうと、濡れたタオルを額に置いて様子を見た。ところが熱はどんどん上がり、これまでにないほど熱くなった。脈も速くなり「頭が痛い、痛い」と息絶え絶えに訴える。
一体何が起こったのか分からなかった。とにかく体を冷やそうと、氷の塊をハンカチに包んで頭、首、脇に当てた。両腕、両足にも濡れタオルを乗せた。水は飲めるがすぐに吐いてしまう。下痢もひどい。
「熱中症じゃないか」と友人が言った。インドを旅行中、同じような症状で倒れたという。熱中症なら点滴で体温はすぐに下がる。だが、最寄りのクリニックは車で15分。電話はつながらず、行ってみたところで点滴が受けられるかどうかは不明だ。病院までは1時間近くかかると聞いて気が遠くなった。とりあえず私だけがクリニックへ行くと、やはり点滴の設備はないとのこと。医師に往診を頼んだ。
冷やし始めて7、8時間は経っていただろうか。医師が体温を測ると39度に下がっていた。点滴の必要はないとのことで、解熱のための座薬を入れた。これで熱は一気に下がると思ったが、下痢が激しく薬はすぐに体の外に。経口の解熱剤もすぐに吐いてしまう。頭や体は熱いのに、足先は冷え、熱のこもった状態が続いた。徹夜で体を冷やし続けた。
翌朝、旅行を切り上げて家に帰ることにした。帰りの車中でも嘔吐と下痢が激しかったが、デンパサールの病院に着いた時には熱は37度まで下がっていた。血液検査と検便をして、デング熱などの感染症の有無を調べた。
「今のところ大丈夫。また熱が出たら来院するように」と医師。2日後、息子はお腹の調子も戻り、何もなかったように元気になった。医療設備の乏しいバリの田舎での急病。今でもあの晩を思い出すと怖くなる。バリ島ならでは経験だったのかもしれない。(北井香織)