「ハビビとアイヌン」日本で出版 ハビビ氏の自伝 イ国民が涙した愛妻記

 インドネシア第3代大統領のバハルディン・ユスフ・ハビビ氏(78)の自伝で、故アイヌン夫人との半世紀に及ぶ夫婦愛を著した「ハビビとアイヌン」が9月下旬、日本で翻訳出版された。インドネシアでは2010年に出版されベストセラーとなり、映画化もされた。大統領経験者の自著が日本で出版されるのは初めて。ジャカルタの紀伊國屋書店でも今月下旬発売予定だ。
 日本語版「ハビビとアイヌン」はA5判で372ページ。価格は2052円(税込)。「大統領になった天才エンジニア、夫婦愛の半世紀」という副題が添えられ、体裁はインドネシア語版原書とほぼ同じ。著者はハビビ氏で、翻訳は元インドネシア教育省顧問で現在三菱UFJ信託銀行本店営業部業務顧問の平中英二さん。出版したのは書籍工房早山(東京都千代田区)で初版部数は約2千部。
 同書はインドネシアで2010年11月ハビビセンターから刊行された。感動的な夫婦愛が話題となり、現在までに発行部数は5刷18万5千部に達し、インドネシアでは異例の大ベストセラー。これまでに英語、ドイツ語、アラビア語、中国語などに翻訳されている。また同書を基にした同名の映画も12年公開され大ヒットとなった。映画は昨年と今年の2回、日本での「インドネシア映画祭」(大阪市)でも上映された。
 内容はハビビ氏とアイヌン夫人の夫婦愛を軸にインドネシアの同時代史を織り交ぜたノンフィクション。インドネシアの国産飛行機開発を夢見てドイツに留学した若き日のハビビ氏は最愛の妻アイヌンさんを得る。帰国後、スハルト氏に重用され、約20年にわたり科学技術振興を指揮、98年5月の政変で副大統領から大統領に昇格した。99年10月の失脚までの日々が描かれている。
 出版元の早山隆邦社長は「メッサーシュミットの副社長の座を投げうち、故国の近代化に身を捧げた夫。それを支える妻の姿。日本の明治維新のときのようなエネルギーを原稿から感じた」と話す。
 日本語版誕生は、ハビビ氏と長く親交のあった元日本インドネシア科学技術フォーラム事務局長で、今年7月に亡くなった所澤仁さんが平中さんに翻訳を依頼したことがきっかけだった。11年には原稿はほぼ完成していたがその後の原書改訂を経て、内容を日本人に理解しやすいように再構成するなどして今回の出版に至った。
 読みどころとして平中さんは「お互いを理解し合い、支え合う二人の人生からは学ぶべき点が多い」とし、「実名で政界要人が登場し、主要な出来事の日時、発言が正確。メモ魔のハビビ氏の本領発揮ともいえる。90年代末を中心としたインドネシア現代史としても参考になる」と話す。
 9月初め平中さんはハビビ氏を訪問し、同書を手渡した。ハビビ氏は表紙デザインの素晴らしさに感激し、「自分の本が初めて日本の読者に読んで頂けることになり、大変うれしい」と話したという。(阿部敬一)

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