【ユドヨノ政権10年】 国内外で評価二分 コップ半分の水どう見るか 小川忠氏 (国際交流基金東南アジア総局長)
ユドヨノ大統領は20日退陣する。政権の2期10年をどう見るか、スハルト政権崩壊後、3人の大統領がめまぐるしく交代した6年を経て、比較的安定した10年間だったことは確かだ。識者の連続インタビューでユドヨノ政権の意義を考える。最初に小川忠・国際交流基金東南アジア総局長に聞いた。
小川氏は10年の見方を「コップの中の半分の水をどう見るか」にたとえた。「半分も入った、良くやった、と見るか、半分しかない、不満だ、となるか、評価は分かれている」。
小川氏によれば、国際社会の評価は「水が半分も入った、良くやった」である。2002年のバリ爆弾テロ、03年ジャカルタJWマリオットホテルの爆弾テロと続き、インドネシアは治安が悪い国、という海外の評価になって、投資も観光客も減った。
ユドヨノ氏の大統領就任は04年だが、すぐ鳥インフルエンザ、アチェの地震・津波と続いた。
小川氏は、大統領就任直後は「怖い国というイメージだった」と指摘する。「しかし、その後テロは小規模で散発的になり、軍と警察を動員して押さえ込むことに成功したと言える」。
その結果、「パブリックディプロマシー(広報文化外交)の観点から見ると、インドネシアは寛容なイスラムで、民主主義を運営できる国、という安心感を海外に与えたし、そうした政治的な安定を背景に経済発展する新興国の大国、というイメージを作った」と説明。「国際社会にそう認識させることに成功した、と言えるだろう。これはユドヨノ政権の大きな成果と評価していいのではないか」と論じた。
■国民は現状に不満
一方、国内の見方は逆である。「コップの水は半分しかない、という不満は国内では強いのではないか」と指摘する。
「金権選挙も汚職も相変わらずだ。憲法裁判所の長官が汚職で逮捕され有罪になった。国民も驚いたのではないか。政権末期にはユドヨノ氏を支えるはずの民主党まで、逮捕者が相次いだ。貧富の格差は固定したかのようだ。生活は昔と変わらないか、むしろ厳しくなった。ジャカルタの渋滞は、ひどいままだ。こうした現状認識に立てば、ユドヨノ政権に対する評価は厳しくなるだろう」。
■厚くなった中間層
小川氏自身は「中間層が厚くなっている」と見る。これは成果の一つだ。
「世銀の調査だが、インドネシアの高等教育(大学)への進学率は、04年が17%、14年が32%だ。この10年でほぼ倍増した。高学歴化は、親が子どもの教育にお金をかけて大学まで出す、つまり中間層が厚くなってきた証拠と見ていいだろう。大学進学率32%という数字は日本の1970年代後半である」。
インドネシアは縁故社会である。しかし「いい大学を出て社会でチャンスをつかむ、という可能性が広がってきたと言えるのではないか」と小川氏は分析する。
今年8月16日の英字紙ジャカルタポストには、大学といっても施設も授業もまだまだ不十分、と指摘する記事も掲載されている。「高等教育も量の拡大から今後は質の充実へ、という課題は明らかだが、徐々に改善されていくだろう」と見る。
インドネシアは独立以来、一貫して教育を重視してきたことも確かだが、スマトラ島の東沖にあるブリトゥン島の小学校での先生と子どもたちの交流を描く映画「ラスカル・プランギ」の大ヒットも、教育の重要性を再認識させたという。
小川氏はほかにもこの10年で変わったこととして、IT化で商品情報が行き渡ったこと、大学生を中心に英語が分かる若い人が増えたこと、イスラム化が進んだことなどを挙げた。特にIT化について、「昔はテレビで上意下達社会だったが、今は上からの統制が効きにくくなった」と指摘、 「これらはいずれも中間層の増加を示す兆候ではないか」と述べた。(今月中随時掲載、聞き手 臼井研一 写真も)