「奥が深い重層的な社会」 新政権サポート、知恵出したい 谷崎新大使インタビュー
谷崎泰明・駐インドネシア大使は先月20日着任し、じゃかるた新聞のインタビューに応じた。その中で、インドネシアの印象を「重層的で奥が深い社会」と述べ、ジョコウィ新政権へのサポートの姿勢を改めて強調した。
谷崎氏は2010年から3年間駐ベトナム大使を務めた。比較するとハノイは日本で言えば中都市の印象だが、「ジャカルタはもう大都会。物理的に高層ビルが多いだけでなく、いろいろな勢力が政治経済を動かしている。政治家、官僚、民間、軍、警察、地方、イスラムと複雑に絡み合っており、重層的な社会だという点でも大都会だ」と説明した。
■やりがいと手強さ
一例として、国会が先月26日、地方首長選挙の間接選挙への移行案を可決したことを挙げ、「政治の力学が複雑という意味で、奥が深い社会。やりがいがあるが、同時に手強いぞ、とも思う」と感想を述べた。
この間会ったインドネシアの要人の中では、インドネシア経営者協会(アピンド)のソフヤン・ワナンディ会長が頭の回転の速い聡明な人で、好印象を持ったという。
また、インドネシアの地政学上の重要性も強調した。イスラム圏(中東から中央アジア)の西にトルコが、東にインドネシアが存在して「ともに過激なイスラムには行かない、民主主義とイスラム文化の融和の手本を示している」として、両国がイスラム過激派に対抗する重要な位置を占めていることを指摘した。
■外資への優遇措置も
そういうインドネシアにとって「安定した繁栄が不可欠」と強調。「さらにアセアン(東南アジア諸国連合)の中心はインドネシアと確信している。人口はもちろん経済力でもそうだ」と述べた。
日本大使としてどういうサポートをしていくか。
谷崎大使は、インドネシアの2000年の輸出に占める工業製品の比率が57.1%だったが、10年後、10年は37%に減っていると指摘。「工業製品が減った分は地下資源の輸出に頼っている。これでは産業構造の逆行だ。学者も言う中所得国の罠にはまってしまう」とし、製造業の輸出を回復させるために「外資を巻き込むこと、そのために外資への優遇措置も必要ではないか。この点は先日会った韓国大使も同意見だった」と述べた。その上で「地場の中小企業の育成にも力を入れるべきだ」と支援の方向を示した。
新鉱業法に関しては、付加価値を高めたいというトレンドの中で「ニッケルなど日本の影響は大きいので、よく話し合う」とした。
■新政権、協力しやすい
20日にはジョコウィ新大統領が就任する。インドネシア国民はもちろん、日系企業の期待も大きい。「国内の最大の課題は格差の是正。他にも、いろいろな問題を解決することを期待されているから、改革が遅々として進まないと、不満も出てくる」と懸念を示した。その上で「日本側としては協力しやすい政権だし、できる限りのことをしたい」と支援の立場を改めて鮮明にした。
政権移行チームの政策の中では海洋国家構想に注目。「発想はいいんですが、もう少し内容を聞いてみたい。全国で港湾整備を計画しているようだが、シンガポールでもフィリピンでも整備している。需要、つまり運ぶ物があるのか。日本側でフィージビリティ(実現可能性)調査をしてもいい。ブレーンストーミングでお互いに知恵を出し合いたい」と呼びかけた。 (聞き手、臼井研一、写真も)
■ 【プロフィル】 たにざき・やすあき 1951年10月20日生まれ。東京都出身、1975年東大法卒、外務省入省。南西アジア課長、西欧第一課長、在ドイツ日本大使館公使、大臣官房総務課長、領事局長、欧州局長、在ベトナム大使、外務省研修所長を経て、今年8月から在インドネシア大使。